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『猫田さんの強かな性格を踏まえて試したことだったが、まさかあれくらいのことで音を上げるなんて、想定外だった』
あれくらいのこと? 身も心も許した男に利用されていたと知って、ズタズタに傷ついたことが、あれくらいのことだ?
「てめえ……ふざけんじゃねえぞ。ネコがどんな思いで組対の一線離れたのかわかってんのか! 一回こっち来て顔出せやコラ!」
俺は携帯電話を耳に押し当て、力の限り怒鳴った。もう我慢の限界だった。
今まで抑えていたものを全てぶちまけるように、周りの注目も厭わず夜の静寂に空気を震わせる。
だが、龍二は終始冷静な声を崩さなかった。肩で息を弾ませる俺に、無情な断りを入れる。
『悪いが今日は会えそうにない。俺もあんたと直接会って話したいのは山々なんだが、今は取り込み中だ』
「ほう~、そうかよ。女の声が聞けなくて残念だ」
『相手は黛監察官だ』
鼻で嗤って皮肉を零したのも束の間、返ってきた言葉に思考以外の全てが停止する。
『レンさん』
冷静な龍二の声音に、仄かな哀愁が帯び始めた。
『ここまで言ったら、俺がなんで組対に来たのか──なんであんたの相棒をやってきたのか、もうわかるよな?』
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