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ある刑事の決意
「はい、お待たせいたしました」
その柔らかな声音に、俺は物思いから我に返って顔を上げた。
ゴトリ、と重厚な音を立てた深皿をそっと持ち下げて覗き込むと、案の定、今夜のおかずは肉じゃがだった。
「今夜は冷えますからね。温かいうちにお召し上がりください」
行きつけの小料理屋『よしの』の女将・河津佳乃の何気ない挨拶文句に、何故か目頭が熱くなる。
「ああ……寒いよな、今夜は」
身も心も、寒すぎて凍えてしまいそうだ。
あいつと初めて会ったあの日、一緒に食べた肉じゃがが、よりにもよって今夜なのか。嫌いになりそうだ。ここでは一番気に入ってるメニューなのに。
漏れ出そうになった吐息を深皿の音で紛らわせ、綺麗なじゃがいもを箸先で半分に割る。片割れがコロンと転がって、俺のほうに腹を向けた。
作法なんて気にせず、ぶっ刺そうとした箸を止めて、ふと思った。
──あいつと、ちゃんと腹割って話したことあったか?
ほんの一時でも、俺に本音を語ってくれたことがあったのだろうか。
見かけによらず賢いあいつが、仁義に熱い坂江の長を危険に晒してまで、三鷹に情報を流した理由は何だ。
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