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「あの、僕……レンさんになら、あげてもいいですよ?」
そのまま、もじもじと人差し指を突き始めた野口に、廉崎は「何をだ?」と小首を傾げる。
「僕のはじ――」
「おーい、廉崎! ちょっと今いいか?」
ひゅ~ん、と下降する虚しい効果音が、どこからともなく鳴った。
野口はそれに押し出されたかのように、ズコッと姿勢を崩す。
「ああ、はい。何でしょう」
廉崎は足早に、上司である男・課長の八角の元へ歩み寄る。
その広い背を、名残惜しげに見送っていたのも束の間。野口は今しがた邪魔をした八角の四角い顔を、キッと睨みつける。
「おのれ八角四角野郎……僕とレンさんのスペシャルスウィートタイム――略してSSタイムを邪魔しやがって……! 貴様これで何度目だ? 僕は覚えてるぞ、これで七度目だ! 大体いつもなんで僕と話してるときに(以下略)」
◇
「指導係、ですか?」
廉崎は、今しがた八角に命じられた内容に耳を疑った。
「私が、彼の?」
言葉を一言ずつ切り、手振りを交えながら慎重に確認するが、八角は確かに「ああ、そうだ」と四角い顔を縦に振った。
「捜査一課から、全く畑違いの組対に越してきたんだ。何かとわからないことも多いだろう。そこでだ、色々教えてやってほしいと思ってな」
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