一章 始動

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 取調室で被疑者と接する際とは比べものにならない、ほわんとした微笑を浮かべて、「どうだ?」と訊ねる八角(はっかく)。 「俺はお前が適任だと思うんだが」  具体的にどの辺りがそう思うのか、と返しても、この上司は答えてくれないだろう。  ノンキャリア組であるせいか、八角は、論理的な説明や理屈っぽい考え方など、徹底的に頭を働かせることをとにかく嫌う。  廉崎(れんざき)は内心、密かに重いため息をついた。――これは面倒なことに巻き込まれてしまった、と。  しかし警察組織というのは、縦社会そのものだ。  ましてや相手は直属の上司。断れば僻地(へきち)に飛ばされる――とまでは流石にいかずとも、このように直々に依頼を持ちかけられることは、恐らくもう二度とないだろう。  つまり――今後の出世(自分)のことを考えると、断るという選択肢はないに等しかった。  廉崎は、最大の懸念事項に頭痛を覚えつつも、ひとまず八角の提案(命令)を承ったのだった。
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