ある刑事の心

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ある刑事の心

 三回(スリー)コールの後、相手が電話に応じた。  携帯電話に電話帳という便利な機能が付いているお陰で、名乗らずとも互いに誰かわかる。  (もっと)も刑事という職業柄、俺は声だけで相手を判断できるが。  今しがた吸い始めたばかりのセブンスター。それを机上の灰皿で()み消しながら、淡々と指示した。 「明日()ってくれ。前にお前が言ってた……誰だ……かぐや姫じゃなくて……ああ其奴(そいつ)だ、神田川(かんだがわ)。使うのは(やつ)でいい」  相手は俺の言い間違いに一切笑うことなく、本当に奴でいいのかと確認してきた。  そのことに少しつまらなく思いつつも、声には出さず答える。 「ああ、構わねえよ。(むし)ろ奴がいいんだ。――これ以上、抱えるわけにゃいかねえだろ」  最後だけ声を潜め、わかってるよな、というように念を押す。  明日の計画がどう転んでも、終わったら神田川(ヤツ)のことは切れ、と前もって言ってある。  について誰よりも熟知しているからか、相手はそれ以上ごねることなく『承知しました』と応じた。  俺はフッと静かに微笑する。 「理解が早くて助かるぜ」  頭が切れるだけでなく従順なところ、そしてきちんと敬語を使えるところが此奴(こいつ)の好きなところだったりする。――彼奴(あいつ)と違って。  瞬間、チクリと喉に小骨が刺さったような痛みを感じた。  しかし俺はそれを振り切るように、手元の携帯電話をそのまま素手で真っ二つに割った。 
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