アニスの涼風となれ

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アニスの涼風となれ

 飢えていた。雪が積もり、木々が青白く染る如月の街中を一人歩くボクは、お腹を鳴らしながら大人達の作る波に逆らい駅をめざしている。  中学生はアルバイトをしちゃいけない。義務教育中は勉学に集中すべきだと。けどそんなのは余裕ある人間が考えた綺麗事だ。  貧乏家庭に生まれたボクは高校に行くお金が無い。先生の言っている事が頭に入らず、運動を頑張っても精々持久走で息が続くくらい。家にお金が無いボクは、学歴社会日本で生きていく上で義務教育が終われば人生終了待った無し。  嫌だ。死にたくない。生まれた時から詰んでいた人生で、頭が悪いから、金が無いからと言い訳ばかりして惨めな思いをし続けて死ぬなんて嫌だ。  中学に上がって直ぐに始めた新聞配達。夕刊だけを配達部数の少ない区域を回ったり、チラシをポスティングする仕事に数時間。稼いだお金は全額貯金して、自分のお金で自分が選んだ高校に行く。専門学校が良い。手に職つけて、そしたら家から出よう。  頑張らなきゃ。  改札に定期を滑らせる。
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