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第一話 女公爵の異母妹は悪役令嬢である
私には異母妹がいた。
彼女は三年前に命を落としている。
今では彼女のことをよく思う人はいない。
それどころか世間では聖女を貶め、皇太子殿下をたぶらかそうとした悪女ということになっているのだから、本人が知れば大泣きをすることだろう。
私にとっては泣き虫な子どもだった。
父と義母からの期待に応えることだけに必死に生きていた可哀想な少女だった。
そして、異母姉から見殺しにされた可哀想な人だった。
彼女の人生は幸せとは言えなかっただろう。
私が彼女のことを見殺しにしなければ、今も、彼女は笑っていたのだろうか。
少なくとも冷たい土の中に一人で眠るようなことはなかっただろう。
私は何度も夢を見る。
彼女の手を掴むこともしなかった後悔の夢だ。
戻ることも出来ない日々を悔やみ、自分自身を疎みながら生きてきた。
彼女が命を落としてからの三年間は早いものだった。
なにを食べても味を感じることはできず、なにを見ても色の認識が曖昧になる。それは日に日に酷くなっていくのだ。
今では視界に入る人や物の色が失せてしまったかのように感じてしまう。
灰色の人生とはまさにこのことだ。
それは、公爵としての責務に追われていた日々の忙しさが原因となった精神的な疲労によるものだろうと医師は言っていた。
そして、一番の原因は異母妹を見殺しにしたことによる後悔からきたものだろうと、小さな声でささやいた。
医者も匙を投げるようなことだ。
私が異母妹を見殺しにしたことを後悔し続ける限り、良くなることはないだろうと言い渡された時、私は罰を与えられたのだとさえ思ってしまった。
あの子を見殺しにした悪女に対して罰が下った。
この白黒の景色は私に与えられた罰だ。
その手を掴むことができなかったことを悔やみ続け、魘される日々は神から与えられた罰の一つなのだろう。
それならば、どれほどに救われるだろうか。
あの子のいない日々を悔やみ続けることにより、忌々しい自分自身に罰が下り続ける。それさえも救いと思えて仕方なかった。
「……アリア」
今日も異母妹――、アリアが眠る墓の前に立つ。
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