第一話 女公爵の異母妹は悪役令嬢である

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 アリアがこの冷たい土の中で眠りについた日から続けている日課だ。  悲惨な最期を遂げたアリアに安らぎの日々が訪れるようにと、死後、苦しむことのないように祈りを捧げることしかできない。 「今日で屋敷を離れることになったよ」  アリアが命を落とした忌々しいこの日に、私は勝ち目のない戦争へ参戦する為に屋敷を発つことになった。 「公爵としての晴れ舞台だ。私には相応しい舞台になることだろう」  過酷な戦地に発つというのにも心は穏やかだ。  この三年間、これほどに穏やかな日を過ごしたことはない。 「アリア。見ていてくれ」  生き残る可能性は低いだろう。  過酷な戦いになることだろう。  自ら命を絶つことが許されない私にとって、今回の戦争は苦痛だらけの日々を終わらせる絶好の機会だ。 「私はお前との約束を果たそう」  公爵家の名誉を挽回する為だったと都合の良い言葉で飾り付けてしまえば、私が死に場所を求めていたとは気づかれないだろう。 「アドルフを養子として引き取って正解だったよ。これほどに早くアリアに会いに行けるなんて思ってもいなかった」  貴族は名誉の為に死を選ぶ。  それが貴族としての務めであると私に教え込んだ母も死後の世界で喜んでいることだろう。 「お前のいない屋敷に戻ってくることはないだろう」  参戦をすれば命を落とすことになるだろう。  そうすれば、公爵家の正当な血筋は絶たれることになるが、二年前、分家から引き取ったアドルフが継いでくれることになっている。  十三歳の義理の息子には負担をかけることになるのはわかっている。  老齢の祖父を公爵代理人として引き戻すのも負担になるだろう。  それでも、私は参戦しなくてはいけない。 「この花を届けることができるのも今日までだ」  あの日のことを忘れることは出来ないだろう。  私の二十一年間の人生の中でこれほどに後悔をし続けていることはない。 「墓参りをすることができるのも最後になる。そう思うと名残惜しいものだな」  スプリングフィールド公爵家が所有する屋敷の中でも、もっとも滞在する日数の多いこの屋敷の中庭の片隅に作らせた小さな墓石に花を置くのも、今日で最後になるのだろう。

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