夜桜

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「コーヒー飲まないの?」  彼がきょとんとした目で尋ねてくる。壁に咲く夜桜は、春の夜に包まれてあでやかにあやしくその身を広げている。まだ引き返せる。そう思ったけれど、はじめて会ったあの夜から、わたしはずっとガラスケースに閉じ込められたままだ。 「ミルク多め、睡眠薬入り?」  カップを掲げ笑ってみせると、彼は大きくかぶりを振って「そんなことはしないよ」と笑った。
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