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 確か近くに24時間営業のコインランドリーがあったはず。三月中旬。今年は暖冬だったせいか春が早い。まだ四月になってもいないのに夜風は生ぬるく、どこかで咲いているであろう桜の匂いがほのかに漂ってくる。  最悪だ。  よもや、こんな時間に洗濯ものを抱えて外にでることになろうとは。ローヒールの踵をコツコツ鳴らしながら、煌々と光っているコインランドリーへと足を進める。暗闇の中、ガラス張りの巨大な箱。そこだけが別空間のようにやけに明るく、なんとなく街灯に群がる虫を想像した。  ウィンと自動扉が開き、中へ入るとひとりの男性がカップ式自動販売機で飲み物を買っているところだった。いいな。あとでわたしも買おう。そんなことを思いながら洗濯ものをつっこみスタートボタンを押す。当たり前だけど、ここの洗濯機は有給休暇をとっていない。水の流れる音がし軽快にまわりだす。  ここで待たなければいけないのが難点だけれど、スマートフォンさえあれば暇を潰すことができる。椅子に腰かけ、ふうと安堵の息をもらした、その瞬間(とき)だった。
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