桜の木の下で

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「ねぇ!良かったらもうちょっと話さない?」 帰ろうと歩き出した時、彼女に呼び止められた。 「おぉ、もちろん!僕も話したいって思ってたんだよ」 近くの公園のブランコに座ってお互いの近況とか思い出を話した。 彼女と話していると時間も忘れるくらい居心地が良くてずっと隣で話していたいくらいだ。 「あー、こうやって君と話せてよかったなぁ…それだけで来た甲斐あったかも」 「僕も、なんか気が合うんだよな。君とは」 「やっぱり?なんだかんだ言って仲良かったよね、私たち。」 もしかしてこれって良い雰囲気なんじゃないか? あの頃の恋心が蘇ってきているのもあるかもしれないけど、それ以上に大人になった今の彼女に改めて惹かれてしまった。 今度こそ勇気を出した時だ、あの時みたいな後悔はもうしたくない。 「あのさ、もし良かったら連絡先……」 思い切って連絡先を聞こうとしたその時、あることに気が付いてしまった。 彼女の左手の薬指にシルバーの指輪がはめられていることに。 「…それって」 「あっ、これ?実はね、去年結婚したんだ!」 「そうだったんだ…おめでとう!!」 「うん、ありがと!」 そっか、そりゃそうだよな。 もう30歳なんだし結婚しててもおかしくない。 なんで今まで気付かなかったんだろう。 馬鹿だな、僕は。大馬鹿者だ。 「今日もね遅くなるって言ったら迎えに行くって言ってくれたんだよね、多分もうすぐ来ると思うんだけど…」 「良い旦那さんじゃん、良かったな!」 「でしょ?我ながらいい人見つけたなって思うもん」 彼女の幸せそうな笑顔を見て、抱きかけた僕の恋心はまたゴミ箱に捨てた。 「幸せそうでなにより。あーあ、僕も早く結婚したいよ」 「君だったらきっといい人見つけられるよ、だって君は私の好きな人だったんだから!」 こう見えて人を見る目はなかなかあると思うよ?なんて言って得意げな顔をして笑ってる。 「ありがとな、じゃそろそろ行くわ。旦那さんとお幸せに」 「うん、今日は楽しかったよ!またいつかね!」 あー、こうやって1人で桜を見ながら帰るなんて虚しいな。 でも彼女が幸せそうでよかった。 あんな笑顔を見たらもう僕に言うことなんて何も無い。 風が吹いて桜の花びらがぶわっと舞った。 「桜か……あんなジンクスなんてなければな」 何もかも全部桜のせいにしてしまおう。 あの時、僕が告白できなかったのも、僕がまた彼女に恋心を抱いてしまったことも、今涙がこぼれそうなっているのも、どれもこれも全部。 「やっぱり桜なんて大嫌いだ」
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