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今でも桜を見ると苦い思い出が蘇る。
あれは僕が高校生の時のことだ。
当時通っていた高校では桜が満開を迎えた頃、桜の木の下で告白すると必ず成功するという謎のジンクスが広まっていた。
そのせいでみんな3月に入るとそわそわしていたのを覚えている。
もちろん僕も例外ではない。
今でこそ30歳になり年を取ったと痛感しているが、当時はバスケ部の副キャプテンだったこともあり女子からの人気はそれなりにあったんじゃないかとは思う。
全て僕のうぬぼれかもしれないけど。
ただそんな僕にも好きな女の子がいた。
僕の親友の彼女の友達で、4人で遊んだことも何回かあった。
僕と同じ静かなタイプだったけど笑いのツボが浅くていっぱい笑う所や、おとなしそうに見えるのに毒舌な所、猫みたいに気分屋な所とかそういうギャップに惹かれたんだと思う。
クラスは別だったけどすれ違う時に挨拶したり、バスケの試合の応援に来てくれたこともあったし、時間が合えば一緒に帰ることもあった。
だから彼女も少しくらい僕に好意を持ってくれているんじゃないかなんて思っていた。
だからもうすぐ桜が満開になる時、初めて彼女から一緒に帰ろうと誘われた時は正直期待した。
「そういえばもうすぐあの時期だね」
「あの時期って?」
「ほら、毎年何人か桜の木の下で告白するじゃん。あれはもう毎年の恒例行事だよね」
「確かにね、…君は誰かに告白しないの?」
彼女は意味ありげな笑みを浮かべて言った。
「んー、秘密!告白する相手がいるかもしれないしいないかもしれない、どっちだろうね?」
そう言うと「じゃあ私こっちだから、またね!」と僕に背を向けて行ってしまった。
秘密といった時の彼女の笑顔が妙に頭から離れなくてその日はよく眠れなかった気がする。
結局、桜は満開を迎えたけれど彼女が誰かに告白する様子はなく桜はあっという間に散ってしまった。
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