桜の木の下で

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3年になると受験もあり、交流は減ってしまった。 一度だけ、一緒に帰らないかと誘ってみたけど「図書館に寄って帰りたいから」と断られてしまった。 後々聞いた話では彼女が志望していた大学は倍率が高く、毎日図書館で勉強していたらしい。 そんなことを知る由もなかった僕は断られたことでなんとなく気まずくなり、ますます話すこともなくなった。 そんな調子で卒業の日を迎えてしまった。 卒業式が終わり校庭を眺めていると例の桜の木の下によく知った人物がいた。 僕が恋心を抱いている彼女と、あれは恐らく後輩の男子だろうか。 男子は頭を下げ手を出していて鈍感な僕で分かった。 告白をしているんだろうと。 そして彼女がその男子の手を握った瞬間、顔を背けた。 最後に気持ちを伝えようとしていた僕の勇気と恋心は呆気なく砕け散った。 「あーあ、あんなの見なきゃよかったよ…」 がらんとした教室でアルバムを眺めていると「一人でなにしてるの?」と聞きなじみのある声が聞こえた。 振り返ると泣いたのか少し目を赤くした彼女の姿があった。 「ただぼーっとアルバム眺めてた、君は?僕と同じぼっち?」 「君が一人で寂しそうにしてたからわざわざ来てあげたんだけど?」 「そりゃ、どうもありがとうございます」 「なんてね、久しぶりに話したくなっただけだよ」 そんな些細な一言に嬉しくなってしまう自分がなんだかすごく恥ずかしかった。 「ね、せっかくだしお互いのアルバムに何かひと言書かない?友達の印に」 「うん、いいけど。変なこと書くなよ?」 書こうとしてもさっき見た光景を忘れようと必死で何を書こうか思い付かない。 結局「お互い大学でも頑張ろう、またいつか」 なんてつまらない言葉を書いてしまった。 アルバムを返すとメッセージを読むなり不満そうな顔をした。 「相変わらず真面目だね君は、でもありがと」 「こういうの苦手なんだって、それより君はもう書けたの?」 「書けたけど……今見たらだめだからね。家に帰ってから見ること、分かった?絶対だよ」 そこまで言われたら余計に見たくなるけどここは素直に従っておこう。 「君が何を書いてくれたのか楽しみにしとくよ」 それからは4人で遊んだ時の思い出とか、ただずっと話していた気がする。 「おーい、そろそろ帰れよー」 どれくらい話していたんだろうか。見回りの先生の声がして他の生徒もぞろぞろと帰っていく。 「そろそろ帰らなきゃだね、私友達待たせちゃってるし」 「僕も友達待ってたんだった」 「じゃ、最後に話せてよかったよ!またね!」 「こちらこそ、また!」 名残惜しい気持ちはあったし、気持ちだけでも伝えようかと思ったけど、どうせ彼女を困らせるだけだ。 最後に話せただけでよかった。 そう言い聞かせて彼女に背を向けた。 家に帰ってアルバムを見てみると 『君と一緒に過ごせてすごく楽しかったよ、仲良くなれて良かった!またいつかね!』 可愛らしい猫の顔文字付きでこう書かれていた。 その文字を見るだけで心が温かくなり自然と顔が熱くなっていくのを感じた。 「好きだったな…」 どうせあの男子生徒はあんなくだらないジンクスがあったから今日、桜の木の下で告白したんだろう。 「あんな変なジンクスも、桜も嫌いだ」 何も考えたくなくて寝転がって目を瞑った。
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