褒美

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褒美

生きていても死に、 死んでも生きるもの… なんだろう…? 「この問題は、少し難しいぞ。 慌てずともよい。 考えてみよ。」 「はい…。 あ、わかりましてございます。」 「もうわかったのか?」 一之丞は驚いた。 芙蓉でさえてこずったのに… 「ほんとうか? では、答えを申してみよ。」 「はい。それは… たぶん植物、花ではないかと…。」 「なぜそう思う。理由は?」 「花は、 美しく咲いて生を謳歌いたしまする。 それはやがて散り、 花の命は終わり、死でございます。 ですが、 葉や根は生きておりますから、 植物としてはまだ生きております。 その葉や根も、 種が落ちた後 枯れて死にまする。 花としても植物としても死んだ後、 種は地中に眠り、 死んだようでありますが でも生きております。 土に埋められるということは 死を意味しますが、 種はやがて時が来れば、 また葉を茂らせ花を咲かせます。 これが、 死しても生きるということかと…。 父が亡くなりましたおり、 父の遠縁に当たるという方が 葬儀に来てくださり こんなことをおっしゃっていました。 命というものは、 肉体が亡んでも無くなるものではない。 父上の命は、 宇宙という大きな命に溶け込んで 休んでおられるだけだ。 いつかまた縁を得て、 きっと、そなたの側にやってくる。 それまで、少し休ませてやりなされ。 そなたが父上のことを思っていれば、 いつも父上の命はそなたと共にあるのだ。 泣くことはない。と 仏典に、 そのようなことが 載っているのだそうでございます。 もしそうなのであれば、 生きていることと死ぬことは同じ事。 生きていても死に、 死んでも生きるものとは、 森羅万象の 命あるものすべてのことかとも 思いまする。 その方は、 悲しんでいる私を慰めるために そのようなことをおっしゃったのかもしれませぬが、 私は、いつも 父が側にいるような気がいたしまする。 答えになっていませんでしょうか?」 芙蓉とも違う答えを出してきた… この娘… 思いの外、聡い質であろうか? 『生死不二』を感得しているとは… 色々教え込んだならば、 面白いかもしれぬ… 「ふむ… 私の考えていた答えとは違うが、 そちの言うことも正解であろう。 良くぞ考えたな。 頑張ったゆえ、褒美を取らそう。」 「まあ、 謎賭けを考えただけで 御褒美がいただけるのでございますか?」 何がよい?と聞かれると思って、 胡蝶はわくわくした。 なににしよう? すると… 「褒美に、 私が直々に教えてつかわそう。 その歳でそのように無学では、 よき家に嫁ぐこともできぬ。 私の側にいるものが 教養もないようでは、 私の名折れでもある。 和歌と書、 それに薬草学も教えてやろう。 刺繍の師は私が見つけてやる。」 え~、 ご褒美が、学問でございますかぁ~ そんなぁ~ お勤めに学問… 休む暇がありませぬ… ぐすん… 当てが外れて意気消沈している胡蝶の側で、 一之丞だけは上機嫌だった。
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