恋煩い?

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恋煩い?

翌朝 昨夜はさすがに少々飲みすぎた… 酔って…醜態を… 臣下の前だというのに… あ"~なんとかしなくては… “殿”としての尊厳が… そして、もうひとつの頭痛の種… 思い煩いの根本原因…が、 目の前に…いた… 数日振りに職場復帰した胡蝶が、 何事もなかったように… いや、胡蝶としては なにも変わらないのだから 当たり前なのだが… …生き生きと立ち働いていた。 これまでであれば、 (だいぶ立ち居振る舞いも、 女中らしく様になってきた…)と、 父親か師匠の気分で冷静に眺められたのに… この気分は、なんなのだ… 朝餉を摂りながらも、 どうも落ち着かない。 目のやり場に困る… …胡蝶が女に見えて仕方がない…。 眩しくて、 顔がまともに見られない… …千谷めが、 あんなことを申すからだ… 恋煩いだとか… 寝所に召せば解決だの… そんなこと…できるか 子どもではないか…13だぞ。 確かに… 早い者はそれぐらいで嫁ぐものだが… 父上の正室である御母上も… その歳にはもう… 父上と婚姻されていた… いや、いや、 それでも胡蝶はまだ色々幼い。 おさない…のか…? ふ…と… 視線が吸い寄せられた… …胡蝶の指は、 あんなに白くて細かったであろうか… しなやかに動くそれから、 目が離せなくなってしまった。 どくん。どくん… …様。 お殿様。 「…ん?何ぞ申したか?」 「もう、お下げしてもよろしいので?」 「あ、ああ…下げてよい。 胡蝶はもう下がってよいぞ… 身体の具合はすっかりよいのか?」 「はい。 何度も薬湯を下さり、 ありがとうございました。 病ではありませんので… 大丈夫でございます。」 胡蝶は少し恥ずかしげに俯いて答えた。 「そのうち、薬学も教えよう。 母上の役に立つこともあろうからな。」 「はい。ありがとうございます。」 …目が合うと… 思わず視線をそらしてしまった… 気のせいか…頬が熱い… 胡蝶が部屋を出て行くと、 思わずほうっとため息が出た… なぜ私がどぎまぎしているのだ… 恋煩い?なのか…? 表に政務を執りに行くにもまだ早く、 皆が出て行くと手持ち無沙汰になってしまった… 文箱を開け、 胡蝶から来た返信の文を取り出した… うむむ… 幼い文字だ… もっと練習させねば… 「…なぜだか、 どこかがすうすういたしまする。 風が吹き抜けていくような心地がいたします。 秋でもないのに、 どうしたことでございましょう。 学問がないのは少し気が楽でございますが、 せっかくお殿様がご用意くださっているので、 身体が戻りましたら、 また一生懸命やらせていただきます。」 一之丞の顔がふっと綻んだ。 私の顔が見られなくて、 少しは淋しいと思ってくれたのか? それとも、 やかましく言われなくて ほっとしたのであろうか? 今下がらせたばかりなのに、 胡蝶の顔が見たくなった。 しかし… もう表に行かなければ… また、真山に小言を言われる… さて、今日は早めに切り上げて、 久しぶりに… 何を教えて遣わそう…
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