謎かけ

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「給仕は胡蝶にさせるゆえ、 そちたちは下がってよい。 あ、酒を持て。」 「そちは何もせずともよい。 そこに控えておれ。」 胡蝶にそう言うと、 一之丞は、はきはきと食事を始めた。 (お殿様って…変わったお方?  ご身分の高い方は、 お付の者に何でもさせて、 ご自分ではなさらないと 思っていたのに…。 それに… お殿様は、近頃食が進まれないと 聞いていたけれど… 聞くと見るとは大違いだわ…) 胡蝶は眼をぱちくりしながら 部屋の端に控えていた。 「なんだ? 気になることがあるなら、 申してみよ。」 「あ、いえ、なんでもございませぬ。  お酌をいたしまする。」 「いいから、そこにおれ。 酌ぐらい自分でする…。 いちいち手を出されるより、 身軽でよい。」 「あ、はあ…」 (私は何のためにここにいるの???) 「胡蝶、家族は?」 「はい。 父は4年前に亡くなりました。 母と姉が一人おりますが、 姉はすでに嫁いでおります。」 「そうか。 では、家には母御一人か。 淋しいことだな。 よく手放されたものだ。」 「母は、お勤めに上がるのを反対いたしましたが、 このところ身体を悪くいたしまして、 針仕事もあまりできなくなってしまいました。 薬代もままならず、 毎日の食事も 事欠くような有様でございました。 そんな時、 さるお方が女中の口を世話してくださるとおっしゃって…。 それで、 母を説き伏せて城に上がりましてございます。」 (ふむ… 本当に真山たちは 私の言うとおりに探してきたらしい… それとも、 そう言い含められてきたか…?) 「好きなことは何だ? 刺繍はいたすか?」 「刺繍?でございますか? 針仕事は母といたしましたが… 私は、不器用でございますゆえ…。 申し訳ございません。」 「和歌はどうだ?」 「書物を読むのは好きでございますが、 和歌は…詠んだことがございません。 母が、 女子はあまり学問をするものでないと申しまして…、 本を読んでいると叱られまする。 和歌などは、 お公家様の姫君が恋の駆け引きで詠まれたり、殿方と交わすもので、 下級武士の家の娘には不用と… 父が亡くなりましてからは、 本もあらかた売ってしまい、 針仕事が忙しく 読むこともなくなりましたが… 本当は…西学と和算が好きでございます。 家に何冊か西学と和算の本がございましたが、 好きで何度も繰り返し読みました。 その本もなくなってしまいましたが…」 (西学と和算が好きとな… 変わった女子だ…) 一之丞は興味をそそられた。 「私は、 謎賭けを考えるのが好きなのだ。 ひとつ問題をやろう。 考えてみるがよい。 生きていても死に、 死んでも生きるものは…なんだ?」 「生きていても死に、 死んでも生きるもの…?」 なんだろう? 胡蝶は一生懸命考えた… その、困ったような顔が愛らしい… どこか、芙蓉に…似ている気がした…
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