【6】手を伸ばす

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「何が食べたい?」 「……海輝と同じもの」 ――『ご飯食べようか。何が食べたい?』 ――『何でも良い。海輝と同じものが良い』 ぽつりと呟かれた言葉に海輝を歓喜させた。 この子は変わらない。 髪を梳き耳にかけてやるような動きで指先を耳朶に滑らせる。彼はじっとこちらを窺っている。そっと頬を撫でると、錦は唇を震わせきゅっと瞳を閉じた。幼い頃に戻ったみたいに、海輝の掌に手を重ね、頬を摺り寄せてくる。 震える睫をみて、彼の寂しさを思い起こす。 全身から溢れる悲しみは最後別れた時と変わりはしない。 変われないのだ。 一度隷属した人間はどんなに足掻いても奴隷のままなのだ。 潜在的な孤独感に堪えていた『あの頃』。 唯一の理解者で味方だった海輝に依存と言っても良いほどの信頼を寄せていた。 そんな彼が、時折微かに浮かべた笑顔は海輝の心を震わせた。 感動と言っても良い。海輝だけに見せた、安心しきった柔らかな表情。 体の奥がざわついた。 獲物を見つけたときの様な静かな興奮。
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