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N社との話し合い ②
長野さんの魂胆はなんだ?
考えていると、ブーンと胸ポケットのスマホが振動した。
秘書である鈴木にではなく俺に電話をかけてくる人は限られていている。
電話には出たほうがいい。
だが電話に出るということは、席を外すということ。この個室に鈴木と長野さん2人きりにしてしまうということ。
個室で男性と2人きりになるのが怖い鈴木に、そんなことはさせたくない。
電話はあとで折り返せばいい。
「電話、出ないの?」
長野さんが俺の胸ポケットを指差す。
「はい、大丈夫です」
「でも君に直接電話をかけてくる人だよ?大物なんじゃない?すぐに出ないと」
強く言われる。
それはそうだと思う。
でも鈴木を1人にするのは……。
「副社長、私は大丈夫です」
俺が思っていることがわかっているかのように、鈴木は言う。
鈴木はそう言っても事情を知っているから、余計に心配だ。
俺の気持ちが表情に出ていたのだろう。鈴木はもう一度、
「大切な電話だと大変です。私は大丈夫です」
と言い、俺は立ち上がる時に「すぐに戻る」と鈴木の耳元で小声で言い個室を出た。
電話をかけてきていたのは、最近急成長をしてきた企業の会長。
この前のゴルフで俺に負けたのがよほど悔しかったのだろう。次回のゴルフのお誘いだった。
そんなどうでもいい電話を、今してくるな!
心の中でげんなりしつつ、あまり無碍にはできないので早く話を終わらせようと「会長は何にでも精通されていますよで、全てお任せします」と言い、早々に電話を切った。
急いで部屋に戻ると、長野さんはご機嫌で酒を飲み、鈴木は顔を真っ青にし体をこわばらせている。
やはり席を離れるんじゃなかった。
「長野さんすみません。急用ができてしまって……。大変申し訳ありませんが今日はこのまま帰らせていただきます」
それだけ言って、真っ青な顔の鈴木と一緒に料亭を後にした。
帰りのタクシーの中、鈴木は黙ったままずっと下を向いている。
「悪かった」
こうなるとわかっていたのに……。
「少し飲み過ぎてしまい、ご迷惑をおかけしました」
鈴木はそう言ったが、料亭で鈴木は酒を一滴も飲んでいない。
俺がそんなこと気づかないと思ったのだろうか?
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