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N社との話し合い ③
翌日、起きてきた鈴木はいつも通りの鈴木だった。
「無理してないか?」
声をかけるが、
「全然大丈夫です!」
いつも以上に元気な返事。
「空元気だろ?」
「若者は回復するのも早いんです。副社長と違って」
わざとふざけて見せている。
こう言う時は大体、何か聞かれたくないことがある。
だったら無理に聞き出すことはしないほうがいい。少し様子をみよう。
昼過ぎ、晴人一家がやってきた。
晴人の長男、千景からすれば俺は親友だそうだ。俺の誕生日には手作りの誕生日カードをプレゼントしてくれた。
三ヶ月になったばかりの清貴は、まだまだ小さく甥っ子の雫と姪っ子の怜が小さい時のことを思い出す。
本当に子供が大きくなるのは早い。
瑞稀くんは鈴木の顔を見ると「その節はお世話になりました」と声をかけた。
どうやら瑞稀くんが病院に検診に行く途中、体調不良になり蹲まっていたにもかかわらず誰も助けてくれなかったところ、鈴木が瑞稀くんに声をかけ連絡をもらった晴人が病院に着くまでの間、瑞稀くんに付き添っていたそうだ。
それで晴人が鈴木に対してあんなことを言っていたのかと納得した。
晴人は少し顔を見せたら帰ろうかと思っていたようだったが、N社と一緒に仕事をしたことがある晴人に契約解除のことについての意見が聞きたくて引き留めた。
「家族との時間なのに悪いな」
ちらりと子供たちの様子を見る。千景は元気だが清貴は眠くなり、ぐずりだしている。
「こちらこそ大人数で押しかけすみません。それであれからN社からは連絡はないんですか?」
「ああ。おかしいと思わないか?今だって利益は出ているし、向こうっもこちらと契約解除すれば困ることも出てくる。なのに解除なんて他に何かありそうろ?」
「そうですね。一度探りを入れておきましょうか?」
秘書の時の晴人の顔になる。
「それは助かるんだが、そんなことできる時間や方法があるのか?」
「1日2日ぐらいなら大丈夫です」
言いきるが、一日で探りを入れられる方法を持っている晴人はやはり、優秀な秘書だ。
晴人との話がひと段落ついた時には、千景も清貴もぐっすり寝てしまっていた。
「瑞稀くん、迷惑をかけてすまない」
「いえ、僕は昴さんと鈴木さんに会えて楽しかったです」
ふわっと瑞稀くんが笑うと、その場の空気が和らぐ。
「晴人、よろしく頼む」
「何かわかったら連絡します。鈴木くん、無理せずにね」
そう言って晴人たちは帰って行った。
「やっぱり山崎さんは凄いですね」
晴人たちが使ったコップを下げながら、鈴木が呟く。
「山崎さんは素敵な旦那様で、いいお父さんで、優秀な秘書。俺なんて足元にも及びません」
「そんなことないぞ。鈴木は鈴木で頑張ってるじゃないか。晴人が人間離れしてるだけだ」
晴人は優秀中の優秀。『全てに関して完璧だが、家族のことになるとデレデレした、ヤバい奴だぞ』と言おうと思ったが、せっかくある鈴木の中の晴人のイメージをわざわざ壊すこともないかと、やめておいた。
「……しなきゃ……」
「ん?なんて?」
よく聞き取れなかったので聞き返すと、
「なんでもないです」
笑顔で鈴木が答えた。
「晴人は特別だ。あまり気にするな」
そう言うと、
「はい」
いつもより少し沈んだような、焦ったような返事が返ってきた。
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