後任秘書

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後任秘書

 俺、内藤(すばる)が祖父が会長、父親が社長をしている内藤財閥の副社長に就任してから約1年。  当時34歳という若さでの副社長。社内の役員からも取引先からも『どうせ会長の孫だからだろ?若造になにができる』という目で見られ、加えて目立つ顔立ちで遊んでそうにもみられた。  それらを払拭するため、がむしゃらに働き実績を残してきた。    会社内の福利厚生にも力を入れた。  派遣社員からの正社員雇用制度。  社内に0.1.2歳児の小規模保育所を作り、出産した社員は必ず産前産後半年の休暇を取れるようにし、育休は最大1人につき3年。  誹謗中傷には原因と発信元を徹底的に調査するようにもした。  とにかく気がつくことには手をつけ、できるだけ実行し、働きやすい職場にしようと微力ながら努力中だ。  プライベートでは人生初の一目惚れ、初恋、失恋を駆け足で経験した濃い1年だった。   あっという間の一年。ちょっと休憩したいがそうもいかず……。  日々の忙しさで、昼食は晴人は手作り弁当持参、俺はキッチンカーの日替わりランチをほぼ毎日副社長室(ここ)で一緒にで食べているのだが、今日はそこにコンビニ弁当を食べる鈴木も加わる。  だが鈴木は普通に食べているだけじゃない。  今朝、晴人に手渡さた資料を見ながら食べている。 「食事中は覚えなくていいんだぞ」  声をかけるが、 「俺、暗記が苦手なんで時間さえあれば覚えていたくて。それに山崎さんが言われていたように、秘書に新人もベテランもありません!」  鈴木は晴人の言葉にいたく感銘を受けたようで、目をキラキラさせ晴人のことを尊敬の眼差しで見つめる。 「頑張るのはいいことだが、無理だけはするなよ」  また声をかけると、 「はい!」  元気よくという言葉がピッタリ合うような返事を、鈴木はした。  そして鈴木が秘書として初出勤してから1週間後。 「すごいじゃないですか!」  あまり人を褒めない晴人が鈴木を褒めると、鈴木は嬉しそうに「えへへ」と照れ笑いをする。  鈴木は顧客、取引先の情報暗記を言われた通り1週間でやってのけたのだ。 「1週間であの量をよく覚えたな」  かなりの量だったので、まさか覚えられるとは俺は思ってもいなかった。 「本当に大変だったんですが、頑張りました」  謙遜することなく言ったが、それがかえってよかった。 「鈴木、秘書(この仕事)はきついし大変だけど続けられそうか?」  秘書の仕事はイレギュラーが多く、臨機応変に対応しないといけないことだらけ。  スケジュールの調整。取引先との打ち合わせのセッティング。  どんなに疲れていても、それを悟られてはいけなしい、清潔感のある身だしなみも大切だ。それに昼休みもあってないようなもの。  鈴木は晴人と一緒にバタバタと慌ただしい1週間を過ごし、秘書としての大変さを肌で感じ取ったと思う。  1週間。  もしこれでダメなら次の人材を探さなければ、晴人の育休に間に合わない。  俺は鈴木に最後に念押しで聞いてみた。 「はい!頑張ります!」  鈴木はなんの迷いもなく答えた。  あ、鈴木なら大丈夫だ。 「これから、よろしく頼むよ」  手を差し伸べると、 「はい!」  そう言いながら、鈴木は俺の手を握り返した。
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