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圭太の告白 ③
その日のうちに鈴木は我が家にやってきた。
誰かと一緒に家に帰るのは久しぶりだ。
「ただいま」
俺が誰もいない部屋に言うと、
「お邪魔します」
申し訳なさそうに鈴木は言う。
「しばらく自分の家になるんだから『お邪魔します』じゃなくて、そこは『ただいま』だろ?」
「そう、ですね。ただいまです」
なんだかおかしな日本語だが、変に聞こえないのが鈴木らしいと思ってしまう。
「店であんまり食べてなかったから、腹減ってるんじゃないのか?」
そう言って冷蔵庫を覗いたが、ここのところ家でも仕事をしていて買い物し忘れていて、卵とバターぐらいしかない。
「オムレツでよかったら作れるけど、食べるか?」
「いいんですか?」
鈴木は嬉しそうに俺を見つめる。
「いいよ。あ、それと、いちいち俺の確認取らなくても好きにしたらいいから。いらなかったら、ちゃんといらないって言うんだぞ」
「はい!」
いつものように元気な返事。よかった。とりあえずはリラックスしてくれてるのだろう。
「それでどうする?」
「いただきます!」
俺はスーツの上着を脱ぎ、食卓の椅子の背に引っ掛けてあったエプロンを着てワイシャツの袖をまくる。
ボールに卵を溶いて調味料をいれる。
熱したフライパンにバターを引いて卵がとろっとしたら卵を形成して、出来上がり。
俺が作っている最中、鈴木は興味津々とフライパンを覗き込む。
「ケチャップつけるか?」
皿にオムライスを乗せると、子供が大好物を作ってもらった時のようにワクワクした様子で「はい!」と返事する。
食卓で俺が作ったオムライスを美味しそうに食べる鈴木をみていると、やはり誰かのために料理するのはいいものだと思う。
「うまいか?」
うまいとしか返せないような質問をしてしまう。
「はい!」
心から言ってくれていそうな「はい!」に嬉しくなる。
「風呂入れておくからゆっくり入れ」
「はい!」
家についてから鈴木は「はい!」を連発している気がして吹き出してしまった。
不思議そうに鈴木は頭を傾ける。
「なんでもない。着替えは晴人が使っていたものを出すから風呂から上がったら着るといい」
「はい!」
ほらまただ。
笑うと鈴木が気にするから、グッと我慢だな。
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