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伯爵家のお茶会
「君との婚約を解消したい」
わたしの婚約者、伯爵家令息はそう言った。
ダークブロンドの髪に青い目。整った顔立ち。しかも嫡男。
お互い15歳。来年には婚姻の予定だった。
婚約したのは2年前。先方からたってと望まれたお話。
幼馴染に連れられて参加した大規模なお茶会で、見初めたと言われた。
・・・貧乏子爵家の我が家には、お断わりできるわけもなくて。
茶髪。茶目。たいした魅力もない子爵家の次女のわたし。
どうしてわたしなどが、婚約者に選ばれたのかわからないまま2年。
今日、わたしは伯爵家でのふたりきりのお茶会によばれたはずなのに。
応接室のソファには、すでに男女ふたりが座ってた。
ピンクの髪の可愛いご令嬢の肩を抱いてる伯爵家嫡男。
この方は、何度も見たことがある。いつも嬉しそうに彼の手に掴まっていた。
いままでふたりでお菓子を食べていたらしい。テーブルの上にはケーキの屑が散らかっていて。行儀が悪いわと、まゆを顰めそうになった。
わたしに席すら勧めずに伯爵家嫡男は、冒頭の言葉を吐いた。
「承知いたしました」
悲しい。震える声。ぽつりと涙まで落ちる。
勘違いした伯爵家嫡男は、にやりと相好を崩した。
「そんなに悲しむとは思ってなかったな。私に惚れていたのか。
しかし、悪いな。私の隣に立つには君は地味すぎる」
わたしの視線はとなりのご令嬢へ。
大きな瞳。胸元の開いたドレス。男性にぴたりと寄り添うその態度。
彼女は・・・わたしの好きな人の好きな人。
・
婚約破棄はすぐに整って。
ふたを開けてみると解消ではなく破棄。先方の有責で慰謝料が届けられた。
伯爵家からすれば、はした金とはいえ。
不貞であるという意識はあったらしいとびっくりした。
あの少女と婚約し、来年には婚姻するのだと聞いた。
・・・思い返してみても、常識がない男というわけじゃなかったわ。わたしと居るときにつまらなそうだったというだけで。
わたしはただ。彼のために泣く・・・。
あなたは失恋をしたのね。
恋を失うことがどれほど辛いか、わたしはよく知ってるわ。
・
泣いているわたしを。両親も姉も兄もすごく心配してくれて。
「大丈夫、次の婚約の話も来ているからね」と兄は口を滑らせた。
・・・そんなこと考えたくなかったのに。
でも確かに。婚約破棄された令嬢なんて、傷物としか思われない。
後妻の話でも無いよりはましなんだろう・・・。
また落ち込むわたしに。
「さぁさぁ笑って!お客様だよ!」と父が声をかける。
お客?
すぐに部屋へ入ってきたのは幼馴染で。
タウンハウスが隣で。小さいころから仲良しだ。同じ子爵家とは言え、彼のお家は裕福。
姉兄妹で押しかけては、美味しいおやつをいただいたっけ。
「よう、久しぶり」
と彼は声をかける。変わらない黒髪に碧の瞳。家族同然に育った彼だから、来てくれたんだろうけど。
・・・今は会いたくなかったわ。
赤く腫れたわたしの目を見て、幼馴染はびっくりする。
恥ずかしくて、さっと俯く。
「・・・まさか、あいつが好きだったの?」
どうしようと、おろおろ呟く彼。
どうしよう?
不思議に思って顔を上げると。
え?
部屋には彼以外、誰もいなくなっていた。
扉は細くあけてあるけど、部屋にふたりきり。
「家族のみんな、君が婚姻を嫌がってるって・・・。
だけど、違ったの?あんな奴が好きだった?」
まさか。
「ぜんっぜん」首をぶんぶん横に振る。
婚約した時。好きな人の事はきっぱり諦めて、婚約者を好きになる努力をしようって思ったけど。
本当、全然無理だった。
「全然!ははっ!」
どうしてそんなに嬉しそうなの?
「・・・でも。じゃ、どうして泣いたの?」
「だって・・・あいつの新しい婚約者を知らないの?」
つい釣られてそう呼んで。
伯爵家の方なのに失礼だったわと反省する。
「ああ。あの女ね。ほんと、うまく引っかかってくれて良かったよ」
?
「彼女が好きだったんだでしょう?」
「いや、別に」
「ずっとデートしていたわ!知ってるのよ!
だからきっとあなたが悲しんでると思って・・・」
またぽつりと涙が出てしまう。
好きな人を諦められない気持ちなら知ってるもの。悲しい思いなんてしてほしくなかった。
「待って。俺のために泣いてた?」
顔を手で押さえてうわぁ、ちょっともう無理。って聞こえてきて。
・・・あ。
はっとする。
しつこくまだ好きだってわかってしまった?嫌がられてる?
どうしよう、好かれなくても嫌われたくない。
わたしがびくびくしてるのに、彼はしれっと隣りへ座ってくる。
少し離れてるけど、隣?!
「ええとね。・・・どうしてか知らないけど。あいつ、あの伯爵家嫡男とは馬が合わなくて。
小さいころから、俺のものをとるのが楽しいらしいんだよね。
だから、また盗ってくれないかな。と期待して、あの女と出かけてた。
ほんと、うまく引っかかってくれて良かったよ。君だけは返してほしかったから」
え?
「あのね・・・俺と結婚してもらえませんか」
びっくりして目をぱちぱちさせてしまう。
「婚約間近だったのに、横入りされて2年も君に触れなかったからね」そういうと彼は私の手を持ち上げる。
「今度はすぐに結婚したい。もう邪魔されないように」
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