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侯爵家のお茶会
「ひどいわ!私という者がありながら!婚約破棄してください!!」
金の髪を綺麗にカールして、ピンクのドレスを着た侯爵令嬢は。
僕を睨みつけている。
オレンジ色のルージュは可愛いな、とさっき思ったんだけど。うん、思ったこと返して?っていう気分だ。
ええっとね?
今日はそれなりに人が多いお茶会で。まわりはこっちを注目してる。
僕の隣にいる女の子も困った顔をしている。
正直面倒くさい。
「解消でいいかな?」
解消と、破棄の違いがどうやらわかってないらしい。
きょとん、とした婚約者。
仕方なく、説明する。
「ええとね?いくら何でも、不貞での婚約破棄を申し立てるのは無理だと思うよ?」
首をかしげる婚約者。
それもわかっていないのか。
まぁ。だよねぇ?って気分。
どうせ親に言われたとおりにここに来たんでしょ?言われた通りの言葉を叫んだんだよね。
ついでにいうなら、いきなり僕の手を握りしめたこの。隣にいる女の子も、君の家の派閥の子だよね?
はぁぁ。溜息くらいつきたいね。
そう思うけど。僕はこれでも数日前まで王太子候補で。すでに教育は受け始めていたんだ。醜態さらす気はないよね。
にっこり微笑んだ僕に。婚約者は頬を赤らめる。あ。ついでにまだ手を離してくれない隣の女の子も。
「今日までありがとう。婚約は解消しようね?」
言質を取るつもりで顔を覗き込む。
呆けた婚約者は。「はい」とキラキラした目で見つめてくる。
・・・もしかしてたった今僕に惚れた?
そういや、婚約が結ばれたのは彼女が生まれたころだし。5歳のころに一度顔合わせしたっきりだったっけ?
会うのはこれで2回目。それも、最初から婚約破棄のために招ばれた訳か。
すっかり僕に見とれて見つめてくるけど、婚約は解消だってば。
ざーんねんだったね?
心の中でにやりとする。
白紙じゃなくて解消にこだわった理由は、こんなおばかさんにもそのうちわかるだろ。
白紙だとなかったことにされるから、僕にはメリットないもんね。
新しい王妃が弟を産んだとたん、僕を切るような派閥しらねぇよ。
解消したら、二度と相手に近寄れないという条件つけてあるからね。
生まれたばかりの弟王子はほんとうに大きく育つかなぁ?
僕はこれから冷遇されることをちゃんと理解しているし。信頼できる味方しかいらないよ。
しかし。
これで新王妃の権力がそこそこだとわかったな。こいつらの派閥は逆らえなかったってことだもんな。
いそいで動かないと暗殺されるのはすぐかもしれない。
そこまでさっと考えて。
では。さようなら。
ちらっと僕は、侍従兼護衛に目をやる。
5つ年上の彼はまだ13歳だけど。
僕より年下の女の子くらい、簡単に引っぺがしてくれた。
「では、殿下。帰りましょう」
「うん」
僕は、侯爵家のお茶会を辞す。
招待客たちと離れたとたん、侍従はため息をつく。
「8歳の殿下にむかって。不貞での婚約破棄を娘に叫ばせるなんて。
・・・娘と同じで、侯爵はあほうでしょうか」
その言い方が可笑しくて。
「そうなんじゃない?さっさと解消の手続きしといてね」
と僕は笑った。
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