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アオちゃんと木登り
手が痛い。足が疲れた。怖くて恐ろしくて、とてもじゃないけど下を見ることができない。
「次の枝を右手でつかみや! 両手で持ち直したら、体勢を整えて、右足を引っかけて!」
頭上からアオちゃんの声が降ってくる。
アオちゃんはずっと上の枝に腰下ろして、ブランコに乗っている時みたいに足をぶらぶらさせている。
僕の指先は、言うことを聞かずにずっと震えている。
―止まれ、止まれ―
そんな僕の願いなんてお構いなしにブルブル。
壊れたおもちゃみたいだ。
震えている指をアオちゃんに見られたくなかったから、次の枝に手を伸ばすのをためらった。
だって、なんかダサいし。
「もうええやん。疲れたし、飽きたわ‼︎」
「ヒロ、ビビってるんやろ」
ふっ、と鼻で笑う音が聞こえた。
顔が熱くなった。びびっているのをばれてたのが恥ずかしかったし、それをアオちゃんに隠そうとしていたことを見透かされていたような気がして、もっと恥ずかしくなった。
「ビビってへんよ」
「手え震えてるやん」
「震えてへんわ」
そう言って、僕は手を枝の陰に隠す。
アオちゃんは、僕がいる枝よりも5メートルは上の枝に腰を下ろしている。あんな高い所まで登れるのは四年生ではアオちゃんだけだ。いやきっと、六年生でもあんなに高い所までは登れないだろう。
見上げると、アオちゃんは青空を背負って、気持ちよさそうに口笛を吹いていた。肩までのびた髪の毛が風に揺れている。
「アオちゃん、転校するってホンマなん?」
メロディがぷつんと切れる。
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