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小鳥の夢
文羽は窓の外で揺れる紅く色づいた葉を見ていた。風に吹かれてゆらゆらと落ちる葉が窓枠から消えていくまで見て、また別の葉を見る。今の彼女にはそれの他にすることはなかった。
真っ白い天井に薄青色のカーテン。つんと鼻を刺激する消毒の香り。彼女の横には花が一輪、花瓶に生けられていた。
部屋の外から女性の声で文羽の名が呼ばれた。いつものことなので返事をする。
「どうぞ」
すると一人の女性が扉を開けて入ってくる。これもいつものこと。彼女の手には白い紙にくるまれた一輪の花。
「文羽、どのくらい入院することになった? まだ親に連絡はしてないんでしょ?」
「……どのくらいかかるかな。長くなるかも。親にはまだ言ってないよ。何言われるか分かんないし。……いつもありがとうね、麻樹」
女性──麻樹は慣れた手付きで花瓶を手に取り、花を抜く。そして彼女は花瓶を覗き込んだ。
「……うーん。水変えてくるね」
「ありがとう」
麻樹が病室を出ていくと文羽は窓の外を見た。
病気にかかって一年。だんだん酷くなっているのが文羽は分かっていた。次は退院するのが早いか、それとも──。
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