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ゆっくりと扉が開き、麻樹が入ってくる。
「水道近くていいわね、この個室」
「そう? 水道、見てないや」
麻樹は元あった場所に花瓶を置く。いつでも新鮮な水に生けられている花は澄んだ香りがするようだった。
紙から花を取るとき、紙が麻樹の指を裂いた。陶器のような白い肌に深紅の雫がのる。
「やだわ。文羽、絆創膏ない?」
「あるよ。ちょっと待って……」
文羽が布団をどけ、探しに行こうとする。すると麻樹は慌てて止めた。
「行かなくていいから。どこにあるの?」
「……あそこの棚の中」
麻樹は扉のそばにある棚へ向かった。文羽がその後に言った、それくらいできるのに、という言葉は麻樹には聞こえていなかっただろう。
絆創膏を貼った麻樹は花を花瓶にいける。花は黄色のガーベラ。麻樹は大体一週間ごとに別の花を持ってきていた。
麻樹はその隣においてある椅子に腰掛ける。ここから二、三時間本を読んで帰るまでがルーティンであった。ちなみに一人になりたいときは文羽が先にメールをしているのである。
彼女が座っているのが窓と反対の方なので、文羽は葉が落ちるのをまた見つめる。
静かな時が流れていた。
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