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「……ようやく飛べるようになったなら、私が止める理由なんてないじゃない。こんな狭い部屋にいないで、大空に羽ばたいていくのがいいと思うわ」
文羽は麻樹を抱きしめた。できる限りの愛を込めて。
「……麻樹は止めないだろうって思ってた。まさか、本当に賛成してくれるとね」
「私がまだここにいてなんて言えるわけないじゃない。それとも言ったら留まってくれたの?」
「……ごめん。たぶん留まれない。もう、時間だから。……麻樹、本当にありがとう」
立ち上がる文羽の足に麻樹はしがみついた。止めたくはないが、行ってほしくない。
「……麻樹、これじゃいけないよ」
文羽の困った声に、麻樹はしがみつく手を緩める。
文羽はそんな麻樹を見て頭を撫で、軽く頬へ口付けをする。親愛なる、永遠の友へ──。
「じゃあね、麻樹。バイバイ」
それは高校の頃に帰り道でよく文羽と麻樹がやるように。また明日、会えるとでも言うように。
文羽が目の前から消えたあと、布団の上を見ると文羽が寝ていた。すぐにでも目を開きそうな顔をして。
麻樹の瞼から幾筋も涙が溢れる。
「バイバイ、文羽」
*
春。満開の桜を前にした麻樹のそばを、小鳥が一羽飛んでいった。それは、かつて友が話していたように、翼を一生懸命動かしているように彼女の目に映った。
─Fine─
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