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恋と不本意
お賽銭を入れて、二礼二拍手。
「湊くんが私のことを好きになって、私のことをお嫁さんにして大事に大事にしてくれますように!」
一礼ッ!
「……叶うといいなぁ。遠かったけど、恋愛が必ず成就する神社らしいから頑張って来たし、ご縁があるように五円も入れたし、大丈夫だよね。」
「五円ぽっちじゃ、うまみ棒の一本も買えないけどなぁ。」
突然、若い男性の声がした。驚いて、「誰!?」とその声のした方を見ると、真っ白な装束を纏った茶髪の男がいた。狛犬の陰から歩いてきた男は、ニコニコとしたまま話を続ける。
「お嬢ちゃん、せっかく来てもらったのにごめんな。残念だけど、そのお願い……叶えてやれないわ。」
「……はぁあああ!?!?叶えてやれないって何!?貴方、この神社の神様か何かなんですか!?」
「お、鋭いねぇ。その通り。」
何よ、この男……!純情な乙女の恋心を踏み躙るようなこと言いやがって!
「ふざけないでください!!第一本当に神様だとして、どうして叶えてくれないんですか!?」
「だって今日不成就日だし。」
「なにそれ?」
「その名の通り、成就しにくい日のこと。この神社の場合、成就させられるときはとにかく上手くいかせられるけど、その代わり不成就日はマジで叶えられない。君の知ってる恋愛成就の願いが叶いやすいっていう噂は、ちゃんと成就する日に参拝した子の話だね。」
「え……いやいやいや!!叶えてくださいよ!?なんでダメなんですか!!」
「そういう日だから。」
自称神様は、ニコニコしたままであっさりと答える。
「そんな……。じゃあもう、湊くんとは友達止まりですか……?」
「それで済めばいいけど、大体破局するし絶縁されるみたいだよ?それから恋愛運も下がって、意中の相手以外にも相手されなくなったりするとか。」
「代償、大きすぎません!?」
「その分、不成就日以外はとにかく上手くいかせるからね♪」
私は膝から崩れ落ちた。
「あー……大丈夫?良い知らせもあるんだけど……聞こえてる?」
「どうせ、高い壺を買えばそれを取り返せるとか言うんですよね……?」
「いやいや、そんなものじゃないさ。良い御縁のお話だよ。湊くんとは違うけど。」
「……なんですか?良い御縁って。誰が私と幸せになってくれるって言うんですか!!」
「俺。」
「……え?」
「一目惚れしちゃったからさ、そんな男やめて俺にしようよ。」
甘いマスクと声を持つその神様に、どうやら私は愛されてしまったみたいです。
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