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彼の寒さで赤らんだ鼻先を見ていたらあの夜を思い出してしまい、目を逸らした。
「…矢口さん、痩せました?」
久々の再会を喜び終えた彼が急に真顔になり、そう尋ねる。
俺は肩をすくめて「痩せてません」と嘘をつく。
毎日顔を合わせる母さんにも痩せたと言われるんだから、数ヶ月振りに会った彼は尚更気付き易かったに違いない。
ショールームに反射する自分に目が行く。
窪む目元に萎んだ顔。
隣に並ぶ彼は綺麗に咲く花のようで、余計に俺を悪目立ちさせた。
全て話さなくても彼は俺を諦めるだろうな。
諦めるじゃないな。あ、やっぱりいいやってなるだろうな。
だって一目惚れした相手が久々に会ったらやつれて萎れているんだもん、冷めるよ普通は。
手間が省けてよかったと思う自分の中で、本当に?と首を傾げる自分が内側からノックする。
おーい。本当によかったのかー?って。
よかったに決まっている。
彼が左手にぶら下げている紙袋は鮮やかで素敵だった。
多分俺への贈り物が入った紙袋だろう。
「店予約してあるんで行きましょう」
わざわざ店を予約してくれた彼にお礼をし、横をついて歩く。
仄かに金木犀の香りが彼から漂い、季節を間違えた花が俺の鼻先を撫でた。
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