矢口冬彦の13

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SNSに目を通す。 検索する投稿は2ヶ月前から変わっていない。 新宿 歌舞伎町 刺傷事件 この三つのキーワードを検索にかけ、最新情報に喰らいつく。 事件発生直後に比べるとかなり少なくなったあの事件の投稿。 話題も薄くなり、きっと関わった者以外の記憶から消されつつあるのだろう。 興味をなくせばこの有り様。 また次のおもちゃで遊ぶだけ。 もう目新しい情報を載せるものはなかった。 見尽くした、と言った方が正解なのかもしれない。 「まぁ〜たその事件調べてんの?」 暇を持て余している様子の小堺(こさかい)さんが眠気覚ましのブラックコーヒーを啜りながら俺の背後を通る。 「勝手に覗かないでください」 小堺さんに見られたSNSをすぐさま閉じ、スマホ画面を隠すようにテーブルに置く。 その様子に「見えちったんだよ」と小堺さんは言った。 「同級生だっけ?その事件の被害者と加害者」 目の前に広がるいくつものモニターをボーっと見つめながら小堺さんが尋ねる。 その顔には"帰りたい"の文字が張り付いていて、警備員としては全く頼りにならなそうな雰囲気を醸し出していた。 小堺さんの問いに黙って頷くと、彼は痰を吐きだす手前みたいな汚い音を喉から出した。 「相当レアな事だよなぁ。被害者と仲良かったんだっけ?」 「まぁ、それなりに」 元カレ、とは言わない。 そんな情報を追加したら小堺さんの肴にされてしまう。
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