105人が本棚に入れています
本棚に追加
/302ページ
杉山透。名前の通り透き通った目をした彼はデビューして間も無くスター街道を駆け上がり、数々の映画やドラマの主演を務めた。
街を歩けば彼のポスターを目にし、テレビをつければ彼が映っていた。
ただ、有名になればなるほど彼の噂は広がった。
「しかし、本当残念よねぇ」
彼には聞かれぬよう配慮しているつもりなのか、女性が声を潜める。
そんなに小さな声で会話するくらいなら黙っていればいいのに。
「あの人ホモだよね確か」
ズクンと、心臓が痛んだ。
重く鈍く鉛が落ちてきたような衝撃に固唾を飲み込む。
杉山透。彼は人気絶頂の最中芸能界を引退した。
引退理由は普通に戻りたい。そう言ったものだった。
俺もその噂は知っていた。
だから尚更辛かった。
何が平等だ。何が表現の自由だ。
「顔がいいのに勿体ない」
後ろから小さな声で鋭い言葉の槍を間接的に浴びて頭痛がした。
もう本当に帰りたかった。
「すみません」
俯く俺のつむじについさっき聞いたばかりの低い声が降りかかる。
誰だがわかっていた。
分かった上でゆっくりと顔を上げると、彼が笑いかけていた。
最初のコメントを投稿しよう!