矢口冬彦の14

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二つしか歳が違わないはずなのに随分と落ち着きがありうんと年上なのだと錯覚してしまう彼の余裕さも似ている。 白ワイン越しにチラリと彼を確認する。 褐色になった霞みたい。 「では次のニュースです。歌舞伎町刺傷事件の被告人である水野さとみ被告ーーー」 店内の薄型テレビから久々に聞く名前が流れ、反射的に振り返り画面に釘付けになる。 名前と年齢と写真。 実名顔出し報道されている彼女にもはやプライベートなど存在していない。 一体どれくらいの人間が彼女をオモチャにするのだろうか。 法廷画家により描かれた彼女の似顔絵はあまりにも似ていなかった。 ひどく痩せ頬が窪み年齢よりも老けて見える。 そして目を引いたのは、彼女の喉に突き刺さる管だった。 「あー、ちょっと前にあった事件ですよね?」 彼にそう尋ねられ「はい」と返事をすると、後頭部からワインを喉に流し込む嚥下音が聞こえた。 ニュースに齧り付く俺に女性キャスターはあの日と変わらぬ淡々とした口調で原稿を読み上げる。 滑舌のよいその口調でハッキリと言った。 「水野さとみ被告に執行猶予なし懲役3年が言い渡されました」
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