矢口冬彦の1

3/6
前へ
/308ページ
次へ
お前が夢中になる女性の体を、女性の柔らかさを、男と違う肉付きを、女性の快楽を。 知ればきっと分かると思ったから。俺を傷つけてまで貪る意味を。薬物中毒者の様に女性の中に入る事にハマる意味を。 だから俺は女性を抱きました。 全てはお前の気持ちを理解し、お前を許せる自分になりたかったからです。 けれども心が裂けて血が出ただけでした。 結局のところ何一つ理解もできず、許せもしなかった。 俺の上で喘ぐ女性を見上げながらひっそり泣きました。心にヒビが入る音を聞きながら、ベッドの軋む音を背骨に感じながら、俺はただひっそりこっそり泣きました。 電柱に寄り掛かり、ズルズルと体を地面に落としていく。 冷え切ったアスファルトの地面がデニム越しに伝わるのを感じながら煙草を一本咥えて、ダウンのポケットから取り出したラブホテルのマッチで火をつける。 夕方の空の色と似た朝焼けの空にカラスが二羽飛び去っていく。 涙を手の甲で拭いながらタバコの煙を吐き出すと、色を変えた二酸化炭素と混じり合って何時もより大きく膨らみながら空に消えていった。
/308ページ

最初のコメントを投稿しよう!

104人が本棚に入れています
本棚に追加