矢口冬彦の14

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「あらら。実刑かぁ」 誰かが半笑いでそう言った。 俺はこの判決が正しいのか疑問だった。 彼女も被害者には変わりないのに。 ネット社会の現代では情報が漏洩しやすく、特定班と呼ばれる奴らまでいるくらいだ。 水野さんと同じく霞も実名、写真が検索すれば簡単にヒットする。 もちろん、霞が過去にした過ちも。 そのため水野さんに同情が集められ、逆に霞にはヘイトが集まっていた。 「…お知り合いですか?」 後頭部に投げられた質問に心臓が飛び跳ねる。 ゆっくり彼の方へ視線を向けると、首を傾げて半笑いを浮かべていた。 その表情が「冗談ですよ」と言っているが、ビンゴだ。 「学生時代の同級生なんです」 「え?」 「被害者も加害者もどちらも俺と同じ高校だったんです」 冗談で言ったつもりが見事に当たってしまい、彼は少し動揺していた。 そして気まづそうに頭を掻いた。 「ただのクラスメイトです。顔見知りが二人も同時にこんな事になってるからつい興味が湧いてしまいまして」 ハハっと乾いた笑い声をあげる。 嘘に本当を混ぜて話せば、それはいずれか本当になるって前に読んだ小説に書いてあった。 彼は少し間を空けた後「…それは驚きますよね」と言葉を返した。
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