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「いっらしゃいませ」
間接照明が仄暗い店内に雰囲気を与え、品の良いウェイターが俺たちを出迎えた。
「予約している杉山です」
「杉山様、お待ちしておりました」
彼の名前を聞いたウェイターが軽く頭を下げ、俺たちを席まで案内する。
丁寧な接客態度とお洒落な店内に安い店ではない事が伺える。
大理石に似た模様の白い扉を開き、個室に案内された俺は少し緊張した。
高い店に来るのは初めてじゃない。けど片手に収まる程度しか経験がない。
目の前に座る彼は対照的に慣れた様子で。
ウェイターから渡されたおしぼりは暖かくラベンダーの香りがした。
「お決まりになりましたらお呼びください」
退室する瞬間までウェイターは丁寧で、まるで金持ちになった気分を味わえた。
「何飲みます?」
ファミレスの薄くてペラペラなメニューとは違い重厚感のある厚いメニュー表。
ソフトドリンクの欄から黒烏龍茶を選び彼に伝えると、「飲まないんですか?」と聞かれた。
「明日の仕事に響くと嫌なので遠慮します」
そう答えると、彼は「そうですか」とだけ返した。
本当は違うけど。
アルコールは8時間経過すれば抜ける。
だから今飲んだって平気だ。どうせ夜勤だから。
二日酔いするほどアルコールに弱くもない。ただ飲みたくなかった。あの夜みたいに呑まれてしまうかもしれないから。
料理は彼に任せた。
カタカナばかりの料理名は得意じゃないし分からない。
スペイン産生ハムとキュウイのサラダを彼は選んでいたが、果たして美味いのか。
その他に3品ほどオーダーしていたが、どれも気取っていて味の予想が難しかった。
「あ、これ。気に入ってもらえるといいんだけど」
タイミングを見計らい彼が鮮やかな紙袋を俺に渡す。
俺は「ありがとうございます」と頭を下げて紙袋を受け取り、彼に中身を見ていいか確認した。
「是非是非。観てください」
ちょっとソワソワして見える彼に口元が緩んだ。
少しだけ可愛く思える。
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