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紙袋には小さな白い箱が入っていた。 ゆっくり箱を開けると、透明な球体が姿を現した。 水晶かと一瞬思ったが、惜しかった。 恐る恐るその球体を取り出すと、白い砂と貝殻とラメが舞う綺麗なスノードームがキラキラと輝いていた。 「綺麗…」 思わず口から漏れ出る。 「壱岐の砂浜の砂と壱岐の海岸で取れた貝殻が入ってるんです。綺麗でしょ?」 丸い硝子の中に閉じ込めた壱岐の海。 その向こうで彼が優しく微笑み春風を吹かせる。 俺は間接照明の淡い灯りにスノードームをかざし、反射を楽しむ。 キラキラと輝くラメが陽に照らされて跳ねる波のようで見惚れる。 「これをどうしても矢口さんに渡したかったんですよ」 「どうして俺に?」 「たまたま出会った男性に勧められたんです。このスノードームにはたった一つだけ購入者の願いを叶える力があると」 まるで十代の学生が食い付きそうな逸話に思わず吹き出す。 なんて幼稚でメルヘンなのだろう。 こんなに余裕があり知的そうな彼がそんなデマカセを信じて買わされるなんて。 可笑しくて仕方ない。 「そんなに笑わないでくださいよ」 恥ずかしそうに腕を組み俺を見つめる彼。 ただ、どうして購入者の願いを一つだけ叶えるスノードームを俺に贈ったのだろう? 願いを叶えたいのなら所持していないと意味がないのでは? 「願いを叶えたいなら杉山さんが持ってないと意味がないんじゃ?」 魔法のスノードームの反射が目に眩しくてテーブルの上に置く。 彼は恥ずかしそうな表情から一変、悪戯っ子みたいな顔で笑った。
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