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「綺麗…」
思わず声が漏れた俺に彼が「他にもありますよ」と言い、指を横にスライドするジェスチャーをした。
俺は彼のスマホに保存されている写真をスライドし、観覧していく。
どこを切り取っても美しい壱岐の海に魅了される。
「俺も行きたいな」
そう言葉を漏らしまたスライドする。
しかし、次に現れた写真は海ではなかった。
至近距離からの写真。
ハーフアップにした男性の横顔。
黒髪に少し白髪が混じっている。
俺は驚きのあまり声の出し方を忘れ、口を半開きにしたままその写真を見つめた。
どうして彼のフォルダにいるんだよ。
俺の異変に気づいたのか、彼がこちらの様子を伺う。
そして「どうしました?」と心配をする。
彼の心配にリアクションを返せなかった。そんな余裕はなくて、目の前に映る男性の写真に心臓ごと持って行かれた。
今朝、元同僚のSNSに投稿された一枚の写真を思い出す。
スマホ画面に映る男とシルエットが似ている人物が投稿写真にも映っていた。
確かあの写真も壱岐だった。
切れ長の涼しげな目元。
血の通わない死体を彷彿とさせる肌の白さ。
「冬彦」
俺を呼ぶ霞の声がスマホ画面からした気がして、思わず男の写真を指でなぞる。
俺に限って見間違えをするはずがない。
久々に見る霞は酷くやつれ、白髪が混じり疲れた顔をしていた。
けれども、相変わらず俺の心臓を叩いて虐める。
「矢口さん?」
驚きに震えた声に顔を上げれば、声と同じ顔を俺に向けた彼がこちらを見つめていた。
どうして驚くの?
そう彼に尋ねようとして気づいた。
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