桜は散って、

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「七瀬、待ってよ〜」 塚原(つかはら) (さくら)が呼んでいる。 「桜さー、なんでそんなに荷物多いの?」 「だって、いるかもしれないって思って荷物準備したらこんなになっちゃった」 桜はなぜかいつも荷物が多い。 「絶対そんなにいらないじゃん」 「これでも減らした方だよ?でも今日、代数だったのに間違えて幾何のテキスト持ってきちゃった」 「意味ない〜」 他愛もない話で盛り上がる。 ほんと、あたしは友達に恵まれてると思う。 桜は上品なお嬢様って感じで、しかもクラスの中で静かな方なのに、ガラが悪くてうるさいあたしとも友達でいてくれている。 「七瀬はさ、どうして私と友達でいてくれてるの?」 唐突にそんなことを聞いてくるから、びっくりはするけど。 「え?桜といるのが楽しいからだよ。桜、なんでも知ってるから話聞いてて面白いし、あたしの話も聞いてくれるし」 即答。 これは、間違いなくあたしの本心だ。 「そ、そう?ありがとう…」 少し照れているのか、俯きがちにそう言う。 「わ、私も、七瀬とお話するの楽しくて好きだよ」 素直に嬉しい。 「えへへ、ありがと」 桜は少し笑った。 けれどそのとき桜は、普段見せないような翳を覗かせた。 「どした?」 桜がはっとする。 「ううん、なんでもないよ」 すぐに最近近所にできたお菓子屋さんの話になって、今度行こうねと約束した。 さっきの桜の顔も、あたしはそれほど気にしていなかった。 まさかそれが、心に深い傷を負った事件の前触れだったなんて、この時のあたしには知る由もなかった。
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