スズカ

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 ああ、鼓膜が破れたんだな、と理解できた。だから何だ、とも思った。僕は今、愛する人と抱擁している。スズカがやっと帰って来たんだ。その事実の前には空襲も死もどうでもよく感じた。全身に激しい衝撃を受けた。  世界が真っ白になった。空っぽの世界で僕とスズカだけが存在していた。痛みは無い。感覚は無い。僕達は一体となって浮いていた。死の刹那の虚空の時間、僕は求めて止まなかったスズカとの穏やかな時を得たのだった。  ありがとう。僕は帰って来てくれたスズカと、最後のひとときをプレゼントしてくれた神様に感謝した。  意識が途切れる間際、鼓膜が破れて聴こえなくなった僕の耳は、それでも確かに、はっきりと聴いた。そうか、君も同じ気持ちなのか。  ありがとう。
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