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膝上に乗った丸い頭を優しく撫でてやった。指と指との間を柔らかい黒髪がさらさらとすり抜ける。スズカはくすぐったそうに微笑し、また、ころんと横を向いた。目線の先ではテレビの画面がワイドショーを放映していた。スズカは難しい事は解らないから、何となく点いているテレビ画面を、何となく眺めているだけだった。
片手で頭を撫で、もう一方の手でカップを取る。スズカの淹れてくれた紅茶を啜る。優しい甘みの中に仄かな酸味が弾けて口中に広がる。美味しい。
薄いカーテンが揺れている。窓から流れ込む涼やかな風が部屋を吹き抜けた。心地良い昼下がり。最後の一日はこうしようと決めていた。何でもない時間を二人で穏やかに過ごそうと。
「あ」スズカが不意に起き上がった。
「どうかした?」
「喉乾いた。ちょっとジュース取って来るね」
紅茶があるじゃないか、とは言わなかった。代わりに、
「足元に気を付けるんだよ」と、声をかける。
少しして、彼女はスナック菓子の袋を抱えて戻ってきた。また気が変わったんだろう。隣りに座り直して袋を開けた。取り出したスナックを自分の口へ、次に僕の口へ放りこんだ。
「美味しいね」
「美味しいね」
スズカはスナックを頬張りながら顔をくしゃくしゃにして笑った。可愛かった。あの頃に戻ったみたいで、涙が溢れた。
「泣いてるの」
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