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スズカが心配そうに見つめる。僕は慌てて目を擦って見せた。
「ちょっとゴミが入ってね。ああ、痛い痛い」
「大丈夫?」
「うん、もう取れた。ほら、もう泣いてないだろ」
「良かったぁ、スズ心配しちゃったよぉ」
「ごめん、ごめん」
スズカの頭を撫でようと手を伸ばした瞬間、轟音が響いた。あまりの音の大きさに鼓膜が痺れて耳鳴りがした。家が、空気が振動し、棚の上の花瓶が床で無惨に砕け散った。
「な、なに?」
スズカが怯えた目を向ける。僕は「大丈夫、心配ないよ」と、努めて穏やかに言い、窓へ向かった。
窓の外で火柱がごうごうと上がっている。熱気で顔の肌が焼かれそうだ。建物群が瓦礫の山と化し、右往左往する住民達の阿鼻叫喚が木霊する。ついにこの辺りにも戦闘機が飛んできたようだ。僕は何事も無かった様に窓を閉めた。
「お外、騒がしいね」
「ああ、馬鹿な若者達が騒いでいるんだ」
「そうなの……、怖いね」
彼女の肉の削げ落ちた細い身体を抱き締める。
「大丈夫、大丈夫だよ」
近くで大きな爆発音が響いた。テレビ画面にノイズが走る。平和だった頃の番組の録画が、消えた。
政府の連中が突如おっ始めた戦争は、全ての日常を破壊し奪い去った。向こうがああ言った、こう言っただの、くだらない理由だった。長年連れ添ったスズカの優しい心は、バラバラに損壊した遺体の前に壊れてしまった。精神が現実を離れ、少女に戻り全てを忘れた。僕のこと以外――。
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