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「紅茶を淹れたよ」
スズカが二組のティーカップとポットを載せた盆を運んできた。黄色の花が散りばめられた可愛らしい模様の陶器だ。スズカと初めて遊びに出掛けた日に、僕がプレゼントしたティーセットだった。僕が何か買ってあげると言うと、子供の様にはしゃぎ、何件も店をハシゴして吟味し、やっとの事で見つけた品だった。おかげで記念すべき初デートは一日の大半をウインドウショッピングに費やす事になったんだ。
「ありがとう」
隣りに腰を下ろすスズカに礼を言う。彼女は照れた笑みを浮かべてガラス製のテーブルに盆を置いた。カップに琥珀色の液体が注がれる。湯気とともに爽やかな果実の香りが立ち昇る。
「アップルティーだね」
「うん、好きでしょう」
彼女はソファーに横になり、僕の膝に頭を乗せた。
「スズカ、せっかく淹れた紅茶が冷めてしまうよ」
「いーの」スズカがごろんと仰向けになった。ガラス玉の様な澄んだ瞳が僕を見上げている。「気が変わったんだ。今はこうしていたいの」
スズカの気分はころころ変わる。それは色とりどりの花畑のようで眺めていて面白い。気分屋な面は出会った頃からちっとも変わっていない。二十歳の時、友達にスズカを紹介された。今も鮮明に蘇る。些細な出来事で怒ったり泣いたり笑ったり、考え方まで慌ただしく変化する彼女に面食らったものだ。
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