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テレビの企画
「わたくしプロデューサーの緑川と申します」
「ご丁寧にどうもありがとうございます。緑川さんとは初めてお会いしますがお噂は兼ねがね、今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそご活躍は耳に入ってますよ。今や飛ぶ鳥を落とす勢いのイケメン新人俳優、西園寺正彦さんとこうしてお話しができて喜ばしい限りです」
「そう言ってもらえると何だか嬉しです」
このプロデューサー、バラエティ番組を手掛けたら右に出るものがいないと言われている業界の超大物だとか・・・
マネージャーが必要以上に脅すから少しビビリながら来てみたけど、見た目は優しそうな人だし身構える必要も無さそうだ。
「ところで今日はどのようなご用件なのでしょうか? 緑川さんからの呼び出しともなると少し怖いですよね」
「そんなにかしこまらないで下さい。今日は新番組の出演を快諾してもらえたお礼と、その新番組で使用するアトラクションのテストをお願いしたいと思いましてお呼びしたんですよ」
新番組の出演を快諾? テスト? 何の話なのだろうか?
「新番組はいつの放送予定なのですか?」
「5年後の10月放送予定ですが・・・、アレ? キイテナイ」
「緑川さん」
「なんでしょ」
「聞き間違いでしたら申し訳ないのですが、今、5年後って言われましたか?」
「はい、そうですが」
「そうですか、やはりそのように言われたのですね」
「何か問題でも?」
「緑川さんが手掛けるのでしょうからバラエティ番組の企画ですよね?」
「はい」
「映画やドラマでもないのに、なぜにこんな早くからのオファーなのでしょうか?」
「それはですね、我が社のオーナーからの要望でして、早い時期から番組の企画を立ち上げて欲しいとの勅命が下りましたので今なのですよ。そちらの社長さんとマネージャーさんにはこちらの事情も踏まえてすべてお話ししておいたのですが聞かれてませんでしたか?」
「申し訳ございません。最近マネージャーとは行き違いになっておりまして、私には伝わっていなかったようです」
マネージャーの奴、僕が断ると思って何も言わなかったな。
「そうなんですね」
「それでどのような番組なのでしょうか?」
「こちらがその企画書となります。目を通してみてください」
「ありがとうございます。それでは少しの時間拝見させていただきます」
「どうぞ、どうぞ」
──
・・・この企画書、表紙から突っ込み所満載だな。
「まず、タイトルなのですが」
「このタイトルはなかなか良いでしょ!」
「まあ、そうですね」
「マスター・オブ・コンフェッション、西園寺正彦の前人未踏的な告白(仮)。どうです、このワクワクしてしまうようなタイトル、私的には物凄く気に入っているのですよ」
「これって僕がメインなのですか?」
「そうですよ」
・・・・・・
「ではとりあえず僕から質問をしても良いですか?」
「どうぞどうぞ」
「1ページ目の企画1、人間加速的な告白(仮)なのですが、これってどう言ったものなのでしょか?」
「それは企画書を見てもらえれば一目瞭然ですよ」
「そうですよね、確かに僕はこの企画1のページを見たんですよ。ですがやばい臭いがプンプンするのであえてお聞きしているのですよ」
「やばいですか・・・」
「いや、何となくですがやばそうな胸騒ぎがするのです」
「それではその胸騒ぎを払拭する為に少し補足説明しましょうかね」
「お願いします」
「まずは、とある国家プロジェクトの説明からしますね」
何だか無駄に壮大な話から始まった。
「その話って企画書に書かれていませんよね!」
「まあまあ落ち着いてください、コホン! この国家プロジェクトは現在進行中の東京湾の海上を全て埋め立てて科学都市を造ると言うものでして、現在6分の1の埋め立てが完了しています。その科学都市のメインとして粒子加速器を建設すると言う話でして。──粒子加速器って知ってますよね?」
「ええ、なんとなくですが知ってますよ。確か2点の粒子をそれぞれ反方向に飛ばして、それらを加速させ、ぶつけてビッグバン的な事を再現する実験設備だったと認識しています」
「まあ、そんな感じですね。それでその粒子加速器の疑似体験型アトラクションも併設予定なんですよ」
「はあ」
「そのアトラクションの名は人間加速器(仮)なんですけどね。これって文字通り人間が加速するわけなんですよ。どうです、何だかワクワクするでしょ」
「まあそうですね、少しだけワクワクしますね」
「これ、私がプロデュースしてるんですよ。健全なアトラクションなのできっと楽しんでもらえますよ」
「はあ」
「死が目の前に迫って来るスリル!! 胃液が逆流する重力加速度、それはもう脳みそが揺れるくらいの体験ができるんですよ」
やっぱりダメだ。聞けば聞くほどメチャクチャな話だ。
「気を悪くされたら申し訳けないのですが、それってやっぱり危険そうなんですけどどうなんでしょうね」
「西園寺さんもそのように言うんですね。みんな私がプロデュースすると聞いて危険な物ができると騒いでいるんですよ」
「まあそうでしょうね」
「ぜんぜん健全なアトラクションなんですけどね」
「いや、まあ、今の話を聞いた限りですが僕は遠慮したいですね」
「そうなんですか?」
「まあそうですね」
「どこが危険なんでしょう~?」
「では僕がこの企画1の説明を少し読みますね」
「どうぞ」
「まず西園寺正彦を小型リニアモーターカーにうつ伏せで寝かせて固定した後、円形リングの筒の中を右周りで加速させる。女性も同じく小型リニアモーターカーにうつ伏せで固定して左回りで加速させる。そしてコリジョンポイントにて正面衝突寸前の刹那的な一瞬の時間で告白を行うと書かれています」
「確かにそのように書いていますね」
「これってどう見ても確実に死ぬでしょ!」
「大丈夫ですって、死にませんよ。先ほども言いましたがこれは健全なアトラクションなのです。そんな簡単に死人が出ていては商売になりませんよ」
「でもですね!」
「安心してください。ほら、磁石の特性で同じ極同士をくっつけると反発するでしょ、あんな感じで衝突地点でギリギリまでくっ付いてその後は反発するんですよ。だからきっと大丈夫ですよ」
「反発した後ちゃんと止まるのか不安ですね」
「大丈夫ですって、反対側も反発しますのでぶつかりませんよ」
「ぶつからないのは分かりましたが、いつまでも行ったり来たりとかじゃないですよね!」
「大丈夫ですって。すぐに止まりますって」
「・・・」
「納得できましたか?」
「できるわけないでしょ!」
「そうですか、納得できませんか、これは少し困りましたね~」
「何がですか?」
「人間加速的な告白はスポンサー都合の企画なので必ずやらないとまずいんですよ。西園寺さんも新人とはいえこの業界の慣習はお分かりでしょ。不承不承、受け入れなければならない時もあるのですよ」
確かにそうではあるのだが・・・
「スポンサーってもしかして国から補助金が出ている団体とかじゃないですよね。ネットで叩かれるのだけは御免ですよ」
「大丈夫ですよ、この企画は大物政治家も絡んでいますから」
「・・・益々心配になりましたよ」
「大丈夫ですって」
・・・・・・
「それで、この企画、やってもらえますよね?」
「いや、何とも言えませんね。企画書には企画3まで書かれているので全て説明いただかないとお受けできるかどうか答えれませんよ」
「ギャラは多めに出しますよ。これくらいでどうですか? マネージャーさんに提示した金額より更に3割増しでお出しできますよ」
緑川さんのスマホアプリの電卓に表示された金額があまりにも高額だったので思わずブルってしまった。
「そ、そうですね、やれない事もないですね」
「そうですか。それは良かったです」
「もしかしてこのアトラクションのテストをやる為に今日は呼ばれたのですか?」
「いえ、まだ物が完成してませんのでテストは後日です」
「では他のアトラクションのテストなのですか?」
「まあそうですね。では、次のページの企画2を見てください」
僕は企画2を斜め読みしたが、これもやはりやばい臭いがプンプンした。
「バンジー的な告白(仮)ですか」
「なかなか面白そうな企画でしょ」
「これって・・・」
「これはですね、何のしがらみも無く私が考えた目玉企画なんですよ」
「かなり危険ですよね。もしかして人間加速器よりも危険なんじゃないですか!」
「大丈夫ですって! 一般人も気軽に利用もできるようにこのビルに設置予定ですし、当然安全面にも十分配慮して設計していますので安心してください」
「はあ」
「今回は試作機を設置していますのでそれを使って今日、今からテストをやりたいと思うのです。お願いできますよね?」
「・・・」
「テストやってもらえたら色々と便宜をはかりますよ」
「それはどお言った事なのですか?」
「クイズ番組のレギュラー起用も考えられますって話なんですけどね」
「やります、やらせてもらいます」
「そうですか、ではADの吉川が案内しますので所定の位置で待機していてください」
「わかりました」
「それでは私は全体の進行を指揮しますのでこれで」
緑川さんは後ろ向きに右手を上げて去ってしまった。
入れ替わりに銀縁眼鏡をかけた秘書っぽい人が部屋に入ってきた。
「ADの吉川と申します」
「西園寺です。ヨロシクね」
「では西園寺様、こちらへ」
とてもADとは思えない芯の通った身振りだ。
「エレベーターで下に降りますのでお乗りください」
「下?」
「はい」
「この企画って僕が飛ぶんじゃないんだ」
「はい、緑川が言うには、女性が飛んだ方が視聴率が取れると言っておりましたので」
確かにそうかもしれない。男がギャーギャー言ってる姿より女性の方がウケが良いはずだ。
「今日は誰がテストで飛ぶの?」
「はい、今勢いのある新人女性芸人の如月プリンが飛びます」
「え? 彼女体重何キロなの」
「先週までは95キロだったのですが、今日のテストの話をオファーすると5日間と言う短い日程で過度なダイエットを実行したようで65キロまで落としてしまいました」
「5日間で30キロのダイエットってやばくない?」
「やばいですね」
「そうだよね」
「今日は限界重量テストも兼ねていましたので痩せられてはテストになりません」
そっちか!
「なので緑川の愛犬、ダルメシアンのミッキー30キロを背負って飛んでもらいます」
「犬を背負って飛ぶって!・・・何階から飛ぶの?」
「32階の屋上からです」
「いやいやいやそれはまずいって」
「大丈夫です。やる気まんまんなので、それに彼女は西園寺様の大ファンらしいのではりきっているのですよ」
「いや、彼女じゃなくて犬が大丈夫じゃないでしょ!」
「大丈夫ですよ、ミッキーは華厳の滝からダイブした事もある強者ですから」
「あんたら犬にナニやらせてるの!!」
「それと緑川も言い忘れているようですが、このバンジー設備は最新アトラクションとして再来月から運営予定なのです。なので今日はTVCMの撮影も兼ねているのですよ」
「・・・・・・」
「ここです、西園寺様はこちでお待ちください」
「え! どうして人型のシールが地面に貼られているの?」
「軽いジョークです」
「普通ならマットとか敷くでしょ!」
「大丈夫です。安全面には細心の注意を施しておりますので」
「いや、そうじゃなくて」
「────あ、はい、分かりました。西園寺様、来ますよ。彼女が落ちてきたら西園寺様に彼女が告白しますので返答をお願いします。あ、それと早口でお願いしますね」
「え、僕が告白するんじゃないの?」
「いえ、彼女が告白します」
「だってタイトルは僕が告白する感じだったと思うんだけど・・・」
「西園寺様、来ます!!」
「早口でいいんだよね?」
「はい、ハイスピードカメラで撮影しますので早口で大丈夫です」
「そうなんだ」
「では位置についてください」
「ここでいいの?」
「いえ、もう少し右です」
殺人現場によくある人型シールの上に立つのは嫌な感じしかしない。
「西園寺様、来ますよ!」
「#########アアア、スス」
「オダ~」
「ギャー」
────
「はい! カット!!」
吉川さんがそれを言うんだ。
それにしても危なかった。
当たったら死ぬところだった。
「これって絶対に危険だって!」
「────あ、はい、分かりました。そお伝えしておきます」
緑川さんからの電話かな?
「西園寺様、緑川が上で映像の確認したらしいのですがエクセレントと叫んでいました。OK出てます」
「撮れた映像を僕も見てみたいのだけど」
「いいですよ、こちらのモニターで確認できますよ」
「アアアアアアアアアアアアアアアアアア、すぅ・・きぃ・・でェェ・・すぅ」
「おぉ・・こぉ・・とぉ・・わバ・・りぃ・・だぁぁぁ・・」
「ギャアアアアアアアア」
・・・・・・
「悔しいけど良い感じだね」
「はい、特に如月プリンの目玉むき出しの顔と西園寺様の顔が近づいてキスしちゃいそうな距離での言葉のやり取りが素晴らしかったと緑川も言っておりました。私の感想を申し上げますと緑川の愛犬ミッキーの舌が上下に揺れて涎が吹き飛ぶ様が素晴らしかったと思います」
「でもこれって当たってたら死ぬよ」
「いえ、当たらないように計算して位置決めしていますので大丈夫ですよ」
「CMみた視聴者から動物虐待とか言われるんじゃない」
「大丈夫です、誰も本物の犬とは思わないでしょうから」
人道的な、いや犬道的な問題なんだけどな。
「それでは時間も有りませんので次のテスト会場に向かいます」
「まだ何かやるの?」
「はい、是非とも西園寺様自らテストをお願いできたらと緑川も言っておりますので。それと次の映像もCMで使う予定なのですよ」
「今度はどんなやつなの? 企画書さっきの部屋に置いてきちゃったよ」
「はい、では説明します」
「お願いするよ」
「次の企画は海賊船ダッシュ告白(仮)と言うものでして」
「そのタイトルを聞いただけで嫌になってきたよ」
「まあ、そお言わず」
「じゃあ説明してよ」
「了解しました」
吉川さんって淡々と仕事をこなすタイプだよな。
「次の企画は中古で購入した遊園地の海賊船を使用します」
「それを聞いただけで不安が込み上げてきたよ」
「大丈夫ですよ」
「・・・もっと詳しく説明してよね」
「では手短に説明しますね」
いや、詳しくって言ってるのに手短に説明ってナニっ! 矛盾してるって。
「座席を全て取り外した海賊船の甲板の左右両端に、それぞれ西園寺様と女性が立ちます。そこから女性だけが走って西園寺様の所まで行き告白すると言った旨の内容です」
「いやいやいや、それって絶対に危険でしょ!」
「大丈夫です。安全面には細心の注意を施しておりますので」
「絶対にウソだ!」
「安心してください。海賊船の上を走るのは女性の方ですから西園寺様には何ら危険は及びませんよ」
「動く海賊船の上に立ってるだけでも危険だって! 僕は絶対にやらないよ!!」
「と言われましてもすでに海賊船は買っちゃいましたし」
「なんでその時にしか使わないような物を簡単に買うかな~」
「ソレはですね、とある会社からとある政治家への迂回資金が関係しておりまして」
なんだかやばい話になってきたな。
「それって聞かないとダメなの?」
「はい、先ほど西園寺様が詳しくと言われていましたので」
「確かにそうなんだけどね・・・」
そこは詳しくなくてもいいのに・・・
「とある大物政治家の親族が経営している会社がタダ同然の廃棄予定の海賊船を仕入れたのです。それをとある団体が高額で購入したのですがその時の代金の全てが親族会社経由で大物政治家に流れているのです。ちなみにとある団体が支払った購入代金の全ては善意の募金から支払われております」
「・・・」
「とある団体は持て余した海賊船の処理に困ったようで緑川に相談してきたみたいです」
「もうメチャクチャだね」
「局の方としましても、とある企業や団体、大物政治家に便宜をはかる必要があったみたいで、高額で海賊船を購入したみたいなんですよ」
何だか耳を塞ぎたくなるような話を聞かされてしまった。
「まあ、政治家への金の流れは僕には関係ないから聞かなかったことにするよ。それでその海賊船はどこにあるんだい?」
「はい、粒子加速器が建設予定の埋め立て地の端に今は置いてあります。コレ写真です」
「おいおい、海賊船の周りは太陽子パネルと風力発電かよ!」
「はい、かの国から仕入れた安い太陽光パネル10万枚と風力発電10塔で発電して海賊船を動かしているんですよ、エコでしょ」
「この太陽光パネルってもしかして・・・」
「聞かないでください」
「僕は非人道的な事には関わりたく無いんだけど」
「そお言わずに。このご時世、テレビ局も様々な利権に乗っからないとやっていけませんので」
「でも僕は・・・」
「────あ、はい、分かりました、伝えます、はい、多分大丈夫です」
「緑川さんから?」
「はい」
「何て?」
「この企画のテストもお願いできるのであれば昼枠のバラエティ番組のMC起用も考えているとの事です」
・・・・・・
「分かったよ、やるよ」
「ご理解ありがとうございます。では海賊船に乗りに行きましょう」
気が進まないけどやるしかないな。
「ではこちらのヘリにお乗りください」
「ヘリで行くんだ」
「はい」
──
「おお~ 一面太陽光パネルだね~」
「西園寺様、あまり乗り出しますと危険です。メガソーラー周辺は上昇気流が発生しやすいので揺れますよ」
「ああ、わかったよ」
──
「やっと到着したな」
「西園寺様、こちら、わが社のオーナーであらせまする如月源水様です」
「え、あ、失礼しました。西園寺正彦と申します」
「そんなにかしこまらなくてもエエよ。それよりうちの孫娘の事をよろしく頼むよ」
「・・・お孫さんですか?」
「西園寺様、今回の相手も先ほどの如月プリンでして、彼女はオーナーのお孫さんなんですよ」
「え!」
「孫が西園寺君のファンでね。是非とも今日のテストに参加させて欲しいと言い出したのでセッティングしたんだよ。くれぐれも孫を悲しませんでくれよ。エエな」
おいおいおい、これって逃げられない雰囲気じゃないのか?
「ほっほっほっほっ!」
「では西園寺様、海賊船にお乗りください」
「ああ・・・」
海賊船に乗ってみて分かるのだけど動いてない状態でもかなり高い。しかも海風が酷い。
今回は下にマットが敷かれているだけでもマシかもしれないけど所詮気休め程度の安全対策だ。
「では動かしますよ~!!」
「ちょ、安全帯とか無いの!」
「無いです。紐を掴んでバランスをとりながら堪えてくださ~い」
「いや、無理だって! あ」
これはやばい。やばすぎる。
どんどん加速して最高点が高くなる。・・・もう死ぬかもしれない。
「そろそろです。西園寺様、如月プリンが来ますよ~!!!」
「さい・おん・じ・さま~!!」
お~ 凄い勢いで走ってきた。でも届かない。僕側が上がった時に来るものだからギリギリ届かず波が引くように後ろに転がって行く。
「あ~あ、それじゃダメだよ!!」
どうして僕側が下がった時に来ないかな~
もしかしてコメディアンとしての矜持がそうさせているのか?
「サイ!──」
「なぜ?」
「アイ!!──」
「なでだ?」
「マス!!!──」
「どうしてそおなる!」
もう見るに堪えない。ボロボロじゃないか。
いいかげんお笑いに終始するのは止めろよと言いたい。
「孫よ!!! もうやめろ、やめてくれ、おい! マシンを止めろ」
爺さん。
「お爺様!!! 私を舐めないでください! 私の愛は彼に届きます。届くはずです」
彼女はどうしてこんなに熱いんだ。こんなのお笑いの一環だろ。
「私はあきらめません!!!」
「孫よ、その意気は良し!」
・・・・・・
「うっ!!! 何だか胸が痛い」
もしかして間違っていたのは僕じゃないのか?
僕が下側に来た時をあえて狙わないで届きそうで届かない演出で笑いを取りに来ているものだと思っていたのだが、そうでは無いんじゃないのか?
恋は人を盲目にさせると言うが。もしかしてそお言う事か!
何度も何度も無茶を繰り返す姿勢、
いつまでも止めない猪突猛進、
血走った眼と体を覆う熱気が僕への愛が本物だと語っている。
彼女はこんなにも僕の事を愛しているのに、
頑張ってるのに僕ときたら高見の見物だ。
「アアアア~!!! 僕は、僕は、僕は」
心がゾワゾワしてしまった。
愛おしくなってしまった。
僕に告白するためだけにボロボロになりながら繰り返す無駄な行為を早く終わらせてあげたくなってしまった。
「来い! プリン。僕が君を捕まえてやる!!」
「ウォォォォォォォ~ サイオンジさま~!!!!」
これは行ける!!
「もう少しだ、プリン!!」
「頑張れ~!」
「頑張れ~!!」
「頑張れ~!!!」
「西園寺様!!!! ア・・捕まえた」
「プリン。君を愛してる」
「ワタシモデス」
僕が彼女を捕まえると、いや彼女が僕を捕まえると二人とも抱き合ったまま倒れて海賊船の動きとともに右へ左へと転がってしまった。
「停止してください!!」
ADの吉川さんの声が響き渡る。そして数十秒後に海賊船が停止した。
僕とプリンは目を一瞬合わせるとNとSの磁石が惹かれるように唇を合わせた。
────
しばらくするとぞろぞろと皆がやってきた。
「西園寺様、緑川よりOKが出ております」
「ほっほっほっ。若者はエエの~ ──西園寺君、孫の事を頼むよ」
「そ、そうですね・・・ 承知しました」
この企画、西園寺正彦の前人未踏的な告白ってタイトルだっただけに結局その通りに告白させられてしまった。
でももし僕が5年後にこの番組のメインであるならタイトルが西園寺正彦の前人未踏的な浮気の為の告白になってしまうんじゃないのかな?
ハハハ
まあいっか。
「好き」
「僕もだよ」
END
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