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三曲目
『君の上履きは何色だー！？』
このショウのコールを聞くのは三度目だ。〈黄緑色の上履きと僕〉はライブで滅多に演らないから。
……カラオケじゃしょっちゅう歌ってたけど。
♪ きみきみきみきみきみどり
ぐりぐりぐりぐりぐりーん
きみきみきみきみきみどり
ぐりぐりぐりぐりぐりーん
ふざけて歌う翔に、タンバリンで滅茶苦茶なリズムを刻んで笑い転げたものだ。
私が音楽活動を諦め、初めてリクルートスーツを着た日も。内定が貰えなくて凹んだ日も。グリーンワルツのワンマンライブが決まって、ちょっと嫉妬した日も。
「藍なら大丈夫。俺が保証する」なんて無責任な言葉を、おどけた歌に乗せて言う。
「だって藍は、皆が見過ごすような些細なこともちゃんと気付くじゃん。それってすげーと思うよ」
♪ しみしみしみしみしみぬき
くりくりくりくりくりーにんぐ
きみきみきみきみきみどり
ぐりぐりぐりぐりぐりーん
ファン人気はあまり高くない。ちょっとおふざけが過ぎるからだ。
「いい歌だねぇ……」
「えっ」
梨沙が涙ぐんでるのを見て、ぎょっとした。ストレートに響いてるじゃん。
サビが転調し、終わりの兆し。
泣く程じゃないが、いい歌だ。
社会人も数年目になればオフィスや電車内、地下通路に飲食店、とにかく生活のあちこちに跋扈する妬みや嫉みとかの厭な感情に苛まれる日もある。
そんなモンを軽くぶっ飛ばして曖昧な希望をくれる曲。
「私、小学生の頃の上履き、緑色だったの」
「あ、そうなんだ……」
友人の知られざるエピソードをこんな形で知ろうとは。いや、どうでもいい情報なんだけど。
♪ きみきみきみきみきみどり
ぐりぐりぐりぐりぐりーん
すぐにわかるよ君の上履き
何足あっても見間違わない
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