幾度春を迎えても

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桜という花が嫌いだ。貴方を連れ去ってしまうから。 「貴方様、そう悲しまないでくださいませ。すぐに帰ってきますから」 優しい貴方はそういうのだけれど、貴方のお母様は私を許さないだろう。 いつだって貴方を明るい世界に連れ帰ろうとするのだ。 「何故私はあの日、貴方を此処に閉じ込めなかったのか」 幾度となく後悔した言葉を、貴方が困ることも構わず口ずさむ。 けれども貴方は優しく、私に笑いかけてくれるのだ。 「私はそういう貴方様だから愛したのです」 美しく花々に飾られた貴方が、ゆっくりと地上に向かっていく。 外の世界ではきっと、皆が貴方の来訪を待ちわびている。 「そろそろ今日の業務が始まります」 「……ああ、分かっている……たった8ヶ月の辛抱だ」 「何かおっしゃいましたか?」 「いいや」 四粒の柘榴に繋がれた我々の絆は儚かろうとも。 4カ月を過ぎて笑顔で帰ってくる貴方を心から待つ。 「ハデス様、行って参ります」 「ああ、ペルセポネー。無事の帰りを待っているよ」
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