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“七人の善き魔女”
***
むかしむかし、プレイオネという大変、立派な魔女がおりました。
プレイオネには七人の娘がいて、彼女たちもまた立派な魔女でありました。
困った人があれば助け、悪い魔女があれば立ち向かったのです。
そのため姉妹は、七人の善き魔女と呼ばれるようになりました。
***
その男は、閉店間際にやって来た。
アイス・フェローは、正体不明の悪寒を感じた。
──その十分前。
エプロン姿のドーラ・フレイルが店に来た。アイスは最後の客を見送り、店の片づけを始めたところだった。
ドーラは小鍋を掲げ、まんまるの顔でにっこりと笑う。
「今日も忙しかったみたいだね。疲れたろう? キノコのスープを作ったんだよ。食べてみておくれ」
世話を焼くのが好きで、それ以上におしゃべりが好き。自称アイス三人分だと言う、ビックサイズの彼女は肝っ玉母ちゃんもとい、ばあちゃんの言葉がぴったりだった。
「ありがとうございます」
アイスは笑顔で鍋を受け取る。できたてらしく、まだ熱い。
「口に合うか、分からないけどね」
ドーラが言い足したのに、
「いつもおいしいですよ」と、アイスは答えた。
お世辞ではない。ドーラが作る物は、何でもおいしかった。彼女がやって来ると、おすそ分けを期待してしまうほどに。くわえて言えば、アイスは料理が得意でないので、その手間が省けることもありがたい。
ただ、本当のことを言えば、アイスはキノコが大嫌いだ。しかし、大家で恩人でもあるドーラに、そんなことを言えるわけもない。
(……頑張って、食べなきゃ)
笑顔は崩さず、心でつぶやいた。
アイスは、カウンターの奥のテーブルにスープを置いて、そのついでにドーラに椅子を持ってきた。彼女の場合、おしゃべりのついでに、おすそ分けを持って来ているような感じがある。
「あぁ、ありがとう」
ドーラが椅子に座ると、その膝の上に三毛猫が飛び乗った。
アイスの猫で、名前はヘーゼル。
猫は商売繁盛、千客万来の神様だから飼ったらいいんじゃないかと、常連客の女性に勧められたのだ。中でも三毛猫がいいと言う。そう教えてくれた彼女も、三毛猫のおかげで商売がうまくいったらしい。
それから半年、そのご利益はようやくといったところ。
「そうそう、アイスちゃん。腰の薬、まだ残ってるかい?」
「多分、あったと思いますけど、」
アイスは後ろの棚を確認する。
「ちょうど、あと一つ」
それはよかったと、ドーラは笑う。
「アイスちゃんの腰の薬は、すぐに売り切れるからね」
「たくさん作れるといいんですけど、まだまだ未熟で」
「いやいや、アイスちゃんの薬は大したもんだよ。だから、売れるんじゃないか。塗ったそばから、痛みがすぅーっと消えてくんだからね」
「もう、ドーラさん、褒めすぎです」
「そんなことないよ。あたしだけじゃない、村のみんながそう言ってるんだからさ。アイスちゃんが、この村に来てくれてよかったって。やっぱり、魔女が作る薬は違うねぇって」
「ありがとうございます」
褒められるとやっぱり嬉しいもので、アイスは自然と笑顔になる。
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