家族になって最後の日

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いいな、とおもった。  どうしてそうかんじたのか。せつめいするのは、むずかしい。  おむかえがきた。そんなけはいをかんじてすぐ、あたりはまっくらで、しかしあたたかなぬくもりにつつまれたようなばしょに、ぼくはいた。  ここから、すこしずつせいちょうし、かたちづくられて、そとのせかいへとでていく。  ぼくをまもるためにつつんでいてくれる。このからだのもちぬしは、いったいどんなひとなのだろう。    さあ、おとされないように、しっかりとつかまっていないと。そんなことをおもってすぐ、「でも君は不完全だから。申し訳ないけど」と、だれかにささやかれたきがしたのをおぼえている。  ーー「ふかんぜん」  ああ、ふかんぜんだったのか。  それは、うまれることのないうんめい。それならしかたない。むかえにきてくれたけど、やっとあえたけど、もうしわけないな。そんなことをおもったかもしれない。  たいないにやどってすぐ、やさしいかんじょうがながれてきたのをおぼえている。「迎えに来たよ」と、かんげいされているようなきがした。  それをしるたび、もうしわけないなとおもい、みをひそめた。  そしてそとがわから、「きた、きた」というまだことばになりきれていない、おさないこえもきこえてきた。  そのこえのそんざいは、どこかじぶんとにちかいふんいきをかんじた。  ぼくににたような、ぼくよりさきにそとのせかいへとびだしたいのち。  かんげいされていても、ふかんぜんだから、すぐにおわかれしようとおもっていた。  そのちいさなこえのあと、おどろいたようなよろこんでいるような、そんなこえがはっきりときこえた。  ちいさなわらいごえと、やさしくいこえ。  そのふたつのこえはまったくちがうのに、どちらもあたたかい。すごくあたたかくて、しあわせそうだなと、かんじた。  だからすこしだけ、もうちょっとだけ、そのこえをきいていたくなったとき、「少しだけなら」そんなこたえが、どこからかかえってきたきがした。  よていより、すこしだけながく。  おさないわらいごえに、つられるようにあたたかいこえがきこえてくる。ちいさななきごえのあとに、ぎゅっとしめつけられるようなかんじょうと、いとしさがながれこんでくる。  「そろそろ、帰ろうか」  そんなこえが、たびたびきこえてくる。  かえらないといけないけど、どうしてか、そのばからうごきたくなくなっていた。  かぞく、になりたい。  ねがったとき、「家族が増えたね」ときこえたきがした。  きづいたときには、うごくはずのないこどうまできざみはじめていた。  もしかしたらと、あわいきたいがうかんでくる。  さいごに、もうすこしだけ。  そうねがうごとに、どくどくと、しんぞうをおおきくうごかした。  よろこびが、こちらのほうにまでながれてくる。そのかんじょうがながれてくるたび、ぎゅっとどこかがしめつけられるような、そんなかんかくがはしる。    たのしそう、あたたかい。うれしそう、さみしそう、やさしいこえ。  もうすこし、ちかくできいてみたい。  そう、おもうたびこどうをならし。だけどそんなむちゃなことをするたびに、じぶんをつつんでいるばしょが、ひめいをあげはじめた。  ふあんそうなおもいが、ながれてくる。しんぱいしているこえがする。  だけどやっぱり、ふかんぜんなことにはかわりない。むいしきに、とだえることのないようにと、ひっしにうごしていたしんぞう。それでも、さいごのときはちゃんとくる。  ゆっくりとはがされていくのをかんじながら、それでもくっついていたいとふんばった。    そとがわから、ないているこえがした。がんばろうとするたびに、つらそうにからだがゆれている。  もうすこしだけ、もうすこしだけ。  もうすこしだけ、かぞくでいたい。  わかれのときはそこまできている。だけど、あとすこしだけ。  どんっと、ゆれをかんじた。かってに、こどうがよわまっていく。  ああ、ここまでか。  たのしかったな。  すこしのあいだだったけど、かぞくになれた。うれしかった。  かんぜんにはなされたしゅんかん、ひかりがみえた。それはほんのいっしゅんだけ。  かぞくになってから、さいごのひ。  「ありがとう」という、やさしいこえがきこえた。    
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