まぎわに、さずける

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私の後をついてくる男がいる。 ぱっと見、若い男だった。明るい髪色をして、色のついたグラスをかけていた。喪服のような真っ黒のスーツを着ていて、なかに着ている緑色のシャツはてろてろの光沢があり、真っ赤なバラ柄だった。スーツにそのシャツを合わせようと思った発想と、実際に着ている行動力に素直に尊敬してしまう。 彼は私の後ろを、数メートルほど離れた距離感を保って、ぴったりと着いて来ていた。 街の雑踏のなかでも、駅の階段を下っても、電車に乗っても、最寄り駅の階段を昇っても、アパートへ向かう住宅街の道でも男は、私のような何のおもしろみのない男にくっついてくる。 暴漢や強盗のような、危ない空気は一切感じない。道端に猫を見つけては小さく手を振ったり、歩道沿いの民家のブロック塀をリズミカルにぺちぺち叩きながら歩いている。 奇跡的に同じ経路を行っているだけかも知れないが、それにしては規則に従うように一定に保たれた距離感が気にかかる。 私は築数十年の二階建てアパートの外階段を昇っていく。 当然のように男も真後ろについて昇ってきた。
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