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昼下がりの住宅街にはのんびりとした空気が流れていて、年季の入った階段を踏む私の足音が響いている。
自室の扉を開錠する。少しだけ扉を開けて、わずかな隙間から室内へ滑り込む。すぐに玄関を閉め、施錠の音が高々と響き渡った。
隙間風すら防げない困った扉だったが、相手を拒絶したこの瞬間とても頼もしかった。
普段は頼りない彼が、トラブルに立ち向かって勇敢な姿を見せたとき、彼女の気持ちとはこんな感じかもしれない。圧倒的な感動。湧き上がる敬意、そして感謝。ありがとう。
ぬるっと、男が閉じた扉をすり抜けて入って来た。
三和土に棒立ちになっていた私と至近距離で向かい合う。
男は「あれ?」と声を漏らした。サングラスを額まで押し上げて、まばたきを繰り返した。
「もしかして俺のこと見えてる感じ?」
私に向かって両手をひらひらと振って見せる。
「ンなワケないか」
「いえ。見えています」
へらへらとしていた男の表情が途端に強張った。
「うわっ! やっぱり! なんですぐに返事してくんないんだよ!」
「扉をすり抜けてくるの、客観的に見るとだいぶ心臓に良くないなって思って」
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