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男は「ふえぇ?」と空気が抜けたような声をだし、ジャケットのポケットをごそごそと探りはじめた。あわただしく取り出したのは一冊のメモ帳だった。
「こういうときってどうすればいいだっけ。相手が見える人間で、俺の存在ががっつり認識されてるときって」
使い込まれたメモ帳をすごい速さでめくっている。
「あの、えっと。あ、ああ、同じアパートの者ですけど、醤油……貸してもらいに……」
ちらり、と上目使いで尋ねられる。口元に笑みを浮かべているが明らかに引き攣っている。
「乗り切れそうですか?」
「……駄目かッ……!!」
男は膝から崩れ落ちてしまいそうなほどがっくりと肩を落とした。
「ん? てゆか、そもそも俺たちって人間に見えるモンだったっけ?」
サングラスを胸ポケットにしまいながら、男は前提に気が付いたように顔を上げる。
私は脱いだスニーカーを三和土に揃えて、廊下を歩く。
背中に男の声が投げかけられる。
「じゃあさ、俺が着いて来てたのも気付いてたってこと? いつから?」
「電車に乗るまえです。コーヒーショップを出たあたりですね」
「ほぼ最初からじゃん。てゆかなんでそんな冷静でいれるワケ?」
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